環境教育の基本方針、改定の軸は? ESDの実践事例を報告

環境教育の基本方針、改定の軸は? ESDの実践事例を報告
ESDの実践事例についても報告された環境省の専門家会議第2回会合(YouTubeで取材)
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 政府の環境教育の基本方針の改定に向けた議論を進めている環境省の環境教育等推進専門家会議は7月20日、第2回会合を都内で開き、関係省庁の取り組みや持続可能な開発のための教育(ESD)の実践事例について報告を受けた。基本方針の方向性について、委員からは優先して取り組む軸となるものを位置付けるべきだといった意見が出た。

 この日の会合では、環境省や農水省、国交省がそれぞれの環境教育に関する取り組みを報告。その後、ESDに取り組むさまざまな活動主体が連携する拠点として全国8カ所に設置されている「ESD活動支援センター」の中から、東北地方ESD活動支援センターが秋田県大仙市立大曲南中学校と行った事例を紹介した。

 同中では2022年度に「総合的な学習の時間」の一環で、3年生がキリバスの中学生とオンラインで交流しながら、気候変動の問題を考える授業を計画。東北地方ESD活動支援センターや日本キリバス協会などが協力しながら、授業そのものだけでなく、実施後の教員と有識者らによる評価なども支援した。同中の島田智校長は、生徒が学習内容を振り返った文章などから、「SDGsの達成に向けた生徒の意識変容と行動変容がみられた。本校の教育の柱の一つであるSDGsの達成に向けたESDの実践による生きる力の育成が本プログラムで実践でき、大きな成果を上げることができた」と、実践の手応えを語った。

 この実践について豊島亮委員(Change Our Next Decade事務局長)は「同世代との交流を通じて気候変動の影響を知るというのは、非常に当事者意識が芽生えると思う。今ある問題を知り、それについて考えるのは非常に良い。しかしそれを行動に移せているのかは疑問が残った。環境教育では既存の問題についてワークショップなどで考えることが多いが、それが実際に参加者の行動につながっているかは怪しい。環境教育について考えるときは既存の、生物多様性や気候変動などの問題を挙げて、どう解決するかに焦点を絞りがちだが、根本的に育むべきなのは、課題を発見したり解決したりする能力で、それを育成した上でどう自分自身の生活と結び付けて当事者意識を芽生えさせるかが重要ではないか」と指摘。

 合瀬宏毅委員(アグリフューチャージャパン理事長)は「かつてはこういう交流はなかなかできなかった。オンラインによって、直接被害を受けている人たちと話ができるようになったのは画期的なことだと思う。遠い国の環境変化を自分事として捉えるためには、その地域の人とどういう議論をするのかというのが極めて重要で、そうした意味からも、デジタル技術を子どもたちが使いながら、環境変化を自分事に変えていく仕組みをどう取り入れるかが大切だ」と、デジタルの利活用の視点を挙げた。

 また、この日の委員間のディスカッションでは、前回会合の議論を踏まえた基本方針の改定の方向性についても複数の委員が発言。棚橋乾委員(全国小中学校環境教育研究会顧問)は「前回の意見を基に論点を整理してまとめていただいているが、全般に良い言い方ではなく、網羅的で平らな感じがする。環境教育はいろいろなことをするけれども、その中でも、その時々に合った大きな問題を柱に据える必要があると思う」と、改定される基本方針の軸がまだ明確になっていないことを指摘した。

 これに関連して島岡未来子委員(早稲田大学研究戦略センター教授)は「非常に危機的な状況の中で、ピンチをチャンスに変えていくような、環境教育のイノベーションの重要性を改めて感じた。環境の課題についてネガティブに思っている人が多い中で、イノベーティブなもので新しい世の中をつくるというメッセージを環境教育の中に入れて行くことが必要だ」と、イノベーションの視点を取り入れる必要性を強調。

 池田三知子委員(経団連SDGs本部長)は「わが国の環境政策の優先度を考慮して環境教育を推進していく視点も重要ではないか。環境教育と自然といっても、自然保護や気候変動、資源循環など、さまざまなものがあり、どれも学ばなければいけないが、今で言えばグリーントランスフォーメーションも非常に重要なので、そういった優先度に配慮した計画にしていただきたい。その過程でイノベーションの重要性や環境、社会、経済の統合の重要性、トランジションの重要性など、さまざまな視点を織り込めたら良い。ただ、非常に一人一人が環境教育に割ける時間も限られている。特に学校教育で割ける時間は限られているのではないか。小学校、中学校、高校、大学、学校教育で何をするのか、学校教育以外で何をするのかといった役割分担、ターゲットを何か示せたらいいのではないかと思う」と、優先度やターゲット、役割分担を整理すべきだと提案した。

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