教育関係者の間でも話題のベストセラー『冒険の書』(日経BP)著者の孫泰蔵氏をゲストに迎え、新渡戸文化学園が主催する未来の教育を考える対談イベント「Nitobe Happiness Talk」が7月22日、同学園内にあるVIVISTOP NITOBEとオンラインのハイブリッドで行われた。孫氏は生成AIなどが台頭する今は100年に一度の変革期であると話し、「これまでの常識をアンラーニングしよう」と訴え掛けた。
同学園では、子育て、受験、探究、大学教育、SDGsなど、さまざまなテーマにおけるゲストと同学園の平岩国泰理事長が対談形式で行う「Nitobe Happiness Talk」を開催している。孫氏をゲストに「『冒険の書』と旅に出る~未来の教育~」をテーマに行われたトークセッションには、会場のVIVISTOP NITOBEに約80人、オンラインで約300人が参加した。
「冒険の書」で孫氏は、「なぜ学校に行かなければいけないのか」「なぜ学校の勉強はつまらないのか」「人はなぜいじめるのか」などの問いに、教育の歴史や偉人のエピソードを交えながら考えを示し、これまでの教育や学校、常識を再考するきっかけを投げ掛けている。
トークセッションで孫氏は1900年代の米国ニューヨーク五番街の写真を示しながら、10年余りで人々の移動手段が馬車から車に変わったことを例に挙げ、「100年に一度ぐらい、たった10年で風景や常識がすっかり変わることがある。今、自動運転車や生成AIが登場し、まさにその変革期にいる」と強調。「常識は、これまでの私たちのコンセンサスの中で生まれ、出来上がってきた。しかし、変革期において常識は、新しいアイデアを考えたりするときにじゃまになることがある」と指摘。そうしたことがこの本を書いたきっかけでもあったと話した。
現在、世界15カ国、約250のスタートアップを支援しているという孫氏は「例えば、プラスチックを環境に全く害のない素材に再生する技術が開発されたり、海水で育てられる米が開発されたりするなど、10年前には実現不可能だと思われていた魔法のようなことが、ここ3~4年で実現している」と紹介。「これらはAIが後ろにいて、AIが発見してくれたからこそ実現してきた」と述べ、今後はさらに人間とAIがコラボレーションすることで新しいことが生まれていくと展望を述べた。
こうして時代によって求められる能力は確実に変わってきている。孫氏は次の世代を生きる子どもたちに「世界は自ら変えられることを伝えたい」と力を込め、「みんなとは違う道に進むことは、とても勇気もいるし、難しいことだ。しかし、私のこれまでの経験上、違う道に進んだ人たちは、みんなから応援されている。なぜなら、みんな違う道に行きたくても選べなかったからだ。応援する人が増えて、みんながつないでいけば、全体としても大きく変わっていく」とエールを送った。
参加者からの「どうすれば常識から自由になれるのか?」との問いに、「常識から自由になるには、一人では難しい。なぜなら自分は常識にはまってしまっているので、どこに常識の壁があるのか気付かない。そのためには他者が必要だ」と答えた孫氏。他者から「なぜそう思うのか?」と問われ続けることで、常識だと思っていたことから自由になれると話し、「これをアンラーニングと言うのだと私は思っている。新しい知識を獲得するだけなら、自分一人でもできるかもしれない。でもアンラーニングには他者が必要だ。みんなが集まる理由の一つに、アンラーニングがある」と考えを示した。
また、「何から始めたらいいのか分からない」という問いに対して、孫氏は「まずは自分がめちゃくちゃやりたいことから始めたらいい。あんまり周りのことなど考えずに、自分の一番やりたいことをやった方が、結果的にもうまくいく」とアドバイス。平岩理事長も「本校の生徒からも、自分の好きなことならいくらでも学びたいとか、自分で調べたことは絶対に忘れない、ということをしばしば聞く」と話し、「今、新渡戸文化学園で取り組んでいるのは、『みんなの好きなことってなに? その周りに英語や国語や数学があるかもよ?』ということ。幼児期から高校生ぐらいの重要な時期に、本当に学びたいものや大好きなものに出合えたら、そんな素晴らしいことはない」と述べた。