教職大学院に在学している学生が履修する実習について、学校現場で行うことを推奨した文科省の通知について、永岡桂子文科相は7月28日の閣議後会見で質疑に応え、「本通知は教員配置の未充足に対応することを主眼として発出したものではない」と述べ、一部に出ている「学徒動員」などの批判を退けた。その上で、「こうした取り組みは、学校現場における教育実践の充実と、実践的な教員養成の双方にメリットがあると考えている」と指摘し、教職大学院と各地域の教育委員会との連携強化や実習の改善・充実を検討するよう促した。
永岡文科相はまず、通知の概要について「昨年12月の中教審答申を踏まえ、より質の高い教育研究活動の推進のために実習の改善・充実について周知したもの」と説明した。
具体的な内容については、現職教員の学生と、学部新卒の学生に分けて言及した。現職教員の学生については「現職の教員が勤務しながら、教職大学院で学ぶ場合には、教職大学院の教育研究活動が、勤務校における実際の教育課題の解決にも寄与することが期待されるわけだから、勤務校において実習を行うことも考えられる」とした。学部新卒の学生については「教職大学院での学びをより効果的に、そして質の高い教員養成につなげる観点において、学校現場での勤務経験を積む機会を提供することが有意義であるので、非常勤講師として勤務できる仕組みを構築することも有効である」と述べた。
こうした取り組みを進めるに当たっての留意点として、「学生の負担に十分留意をするとともに、教職大学院としての実習と学校教育活動の双方が円滑に行えるようにすることなどが考えられる」とした。
教職大学院と各地域の教育委員会との連携では、立命館大学教職大学院と京都市教育委員会が、今年4月から教職大学院に在学する学生が京都市立学校における非常勤講師として勤務しながら、大学院での学びと学校現場での実践の両立を目指す制度をスタートさせている。京都市教委によると、今年度は2人の学生が大学近くの公立小学校で非常勤講師として週16時間の勤務に就いている。
この制度について、立命館大学教職大学院と京都市教委では▽学生は教職大学院で学んだことを非常勤講師として勤務する学校で生かしたり、勤務する学校での実践課題を大学院の学びの中で解決したりするなど、「理論と実践の往還」をしながら専門性を高めることができる▽学生は非常勤講師として勤務できるため、在学中の経済的な負担軽減が図れる--などと説明。また、京都市教委は「優秀な教員の確保にもつながる」としている。
また、この通知に対して一部で「学徒動員」といった批判が出ていることについて、永岡文科相は「本通知は教員配置の未充足に対応することを主眼として発出したものではない」と説明。「こうした取り組みは、学校現場における教育実践の充実と、実践的な教員養成の双方にメリットがあると考えている」と述べ、文科省として推奨していく考えを強調した。
この通知は、教員養成に関わる大学に各地域の教育委員会との連携や教員就職率の向上を求めた中教審答申の方向性を踏まえ、教職大学院の学生が10単位以上の履修を求められている学校現場などでの実習の改善・充実を求めたもの。通知のタイトルは「教職大学院における実習の改善・充実について」で、6月21日付で教職大学院を置く各国私立大学長宛てに発出されている。
中教審は昨年12月にまとめた「教師の養成・採用・研修等の在り方」に関する答申で、教員養成大学・学部や教職大学院の在り方について、各地域の教育委員会と大学との連携強化や、実務家教員の大学教員への登用を進めるなど「理論と実践の往還を重視した人材育成の好循環の実現」を掲げるとともに、各大学に対して「教員就職率の向上を図る取り組みを積極的に展開していくこと」を求めた。その上で、教員就職率が継続的に低い教員養成大学・学部については「入学定員の見直しや大学間の連携・統合に係る検討を進めていくことが必要である」と、組織体制の見直しにも言及している。
文科省によると、教職大学院は2022年度で全国に54校あり、このうち国立が47校、私立が7校。鳥取県と島根県が2県で1校となっているものの、ほとんどの都道府県に1校以上が配置されている。合計の学生数は4258人で、このうち国立が4052人、私立が206人。学生の内訳は、教委からの派遣を含めて現職教員が約4割を占め、教員養成などの学部を卒業してそのまま教職大学院に進学した学生が約6割となっている。