日本個性化教育学会(会長:加藤幸次上智大学名誉教授)の第16回全国大会が8月5、6の両日に開かれ、「多様な子どもの多様なニーズに応える教育の構想」をテーマに講演やディスカッションなどが行われた。2021年の中教審答申に示された「個別最適な学びの実現」の具体的な手だてとして近年注目されている「単元内自由進度学習」を取り上げたセッションでは、全国各地の学校での実践事例が報告され、活発な議論が行われた。
単元内自由進度学習は、子どもが自らの選択や計画に基づき、自分のペースで教科内容を学び進める学習方法で、教師は子どもが一人で学びを進められるよう、子どもの学習特性に応じた学習材や学習環境を整える。福岡県の宇美町立桜原小学校の梶原捷聖教諭は、子どもたちが「学習の目的を見いだせず、何を学ぶのかがあいまいなまま授業に参加している」といった問題意識から、5年生の算数「速さ」で、6年生で予定される修学旅行と関連付けた単元内自由進度学習に取り組んだことを報告した。
梶原教諭は1カ月ほどかけ、学習計画の全体像などを示した学習の手引きやワークシート、掲示物のほか、「修学旅行プラン」を作るシートや資料を用意。子どもたちは熱心に取り組んだといい、「子どもが主体的に学んでいるかどうかは、教師が主体的に学ぶ場を提供できるかで決まる」「子どもは交流の必要性を感じれば、真剣に交流する」と気付きを語った。
一方、単元の中盤で学力の高い児童が全ての学習プリントを終わらせてしまい、学習意欲が低下する場面もあったといい、「もっと子どもを見取り、適切な課題を用意すべきだった」「オープンエンドの課題は終わりが見えず、子どもが飽きてしまうことがあった」と振り返った。単元計画の練り直しや、応用問題のワークシートの追加などの対策を行ったことで「真剣に取り組む雰囲気が戻った」と明かした。
また、静岡県の御前崎市立白羽小学校の村松央道教諭は、児童の主体的に学ぶ力や、自分の考えを表現する力を育むために単元内自由進度学習を導入。今回は6年生の算数「比とその利用」と理科「てこのはたらき」の2教科を同時に進める実践などを報告した。
村松教諭は、統合的な思考をサポートする学習カードに加え、学習カードでは学びにくい児童のために解説動画を用意するなどの工夫も取り入れたと話した。とりわけ算数では「比」の概念の理解が難しいことを想定し、全ての教科書の説明部分を掲示したほか、冒頭にガイダンスの時間を設け、全員で定義の確認をしたことを紹介した。
村松教諭は「予想通り、理科を短時間で終え、算数に時間をかける児童が多かった。それでも計画通りにはいかないので、どう調整するかを子どもたちなりに考えていた。一斉授業だとほとんど話さない子が、たくさん振り返りを書いていて、心の中ではこんなにも言葉があふれていたのだなと分かった」と話した。加えて、テストの結果や解答の記述から、「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」の向上が確認できたことを報告した。
さらに、愛知県の東浦町立北部中学校の横山稔史教諭は、英語科で単元内自由進度学習を始める際に「どんな力を身に付けるのか」「身に付けた力をどう活用するのか」などを、生徒と対話しながらオリエンテーションをすることを紹介。その上で、新出文法の内容のみ一斉指導とし、あとは生徒が学習計画表に沿って英単語の確認、教科書の和訳、音読練習などの学習を、それぞれのペースで進めることとした。
横山教諭は「生徒の声に向き合う」「生徒のニーズに応えようとする」という教師の姿勢が大切になると指摘。生徒に単元内自由進度学習についての意見を聞いたところ、肯定的な答えが多かった中で、「何をしたらよいか分からなかった」という生徒もいたといい、「教師が学習の仕方を提案することも大切」と語った。
参加者からは「自由進度学習を模索しながら実践している学校にとって、実践意欲が湧く発表だった」「若手教師が自由進度学習にチャレンジし、子どもたちから多くを学び、教師自身も成長している姿に感動した」「単元内自由進度学習にも一斉授業にも双方の良さがあり、それぞれで目指すものや目的意識を持って設定し、使い分けていくことが重要だと感じた」といった意見が寄せられた。