全国一律の教育水準を維持するための学習指導要領や教員養成、子どもたちの協調性を育むための「特別活動」――。こうした日本の教育を特徴づける制度や取り組みが近年、国際的に注目を集めている。海外からの要請を受け、日本政府も海外での普及を積極的に支援しており、「日本式」を採用する動きが発展途上国を中心に広がっている。
「現地の教員のスキルは確実に上がってきている」
7月20日、東京都千代田区にある教科書会社「学校図書」の芹澤克明社長はこう言って笑みを浮かべた。南太平洋に位置するパプアニューギニアでの展開を計画している新たな教育支援プロジェクトについて話を進めるため、現地での9日間の滞在を終え、つい1週間前に帰国したばかりだという。
国内で小中学校の理科や算数・数学の教科書を発行している同社が、本格的にパプアニューギニアの初等教育に関わるようになったのは7年前のことだ。独立行政法人国際協力機構(JICA)のプロジェクトに参画し、初等学校の3~6年生の算数と理科の国定教科書づくりに協力してきた。同社は以前から日本の教科書の英語版を発行しており、これをベースとして、現地の教員たちと協議を重ねながら、使い勝手の良いものに改良していった。授業での教え方や板書の例などを記した教員向けの指導書づくりもサポートし、教科書とともに2020年から現地の学校で使われ始めている。
JICAによると、パプアニューギニアはもともと、オーストラリアの支援で教育カリキュラムを整備し、学年ごとに身に付けるべき学習目標を定めたものの、子どもたちの学力は伸び悩んだ。背景には指導力のある教員が不足していたことに加え、教科書や指導書などの教材がなかったために、授業の質を担保することが難しいという事情があった。そこで今度は、日本の協力の下で改めてカリキュラムを作り直すとともに、国定教科書づくりに取り組むことになったという。
パプアニューギニアは交通網の整備が遅れており、地域による教育環境の差も大きい。JICAの担当者は「全国一律の教科書ができたことで授業改善が進み、底上げにつながってほしい。教科書づくりで終わりではなく、今後は教員の養成や研修の面でサポートを続け、現地でのより良い教育の実現に協力していきたい」と話す。
こうした日本式の教育の導入は、パプアニューギニア以外の発展途上国でも進められている。JICAはこれまで、ラオスやエルサルバドル、モザンビークで理数系の教科書づくりなどを支援してきた。また、日本政府は16年2月、エジプト政府との間で「エジプト・日本教育パートナーシップ」を締結し、保育園から大学まで日本式教育の特徴を生かした包括的な協力を行っていくことで合意。掃除や日直、朝の会・帰りの会といった「特別活動」の普及などが進められている。
文科省も16年度から、官民連携で日本式の教育の海外展開を推進する事業「EDU-Portニッポン」をスタート。発展途上国などで教科書づくりやカリキュラム整備、教員養成などに協力している日本企業やNPO法人、大学などをサポートしてきた。海外では、日本の授業以外の教育活動が、数値で測りづらい「非認知能力」に与える効果も注目されているといい、過去には部活動や運動会を普及するプロジェクトも展開された。
パプアニューギニアの国定教科書づくりに協力してきた学校図書は今年1月、初等学校の1年生と2年生の算数と理科の国定教科書づくりを請け負う契約を新たに結んだ。これにより、初等学校の算数と理科は全学年で「日本式」の教育が導入されることになる。現地ではインフラ整備における中国の存在感が高まっているが、芹澤社長は「教育制度という面では、体系的に学ぶことができる日本のシステムが高く評価されていると感じる」と話す。