「生涯学び続ける好奇心を子供たちに」 リンダ・グラットン教授

「生涯学び続ける好奇心を子供たちに」 リンダ・グラットン教授
オンラインで講演したロンドン・ビジネス・スクールのグラットン教授
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 教育イベント「未来の先生フォーラム2023リアル」(同実行委員会主催)が8月19日と20日、都内で開かれた。19日の開催記念プログラムでは、「人生100年時代」の生き方を説いた著書『LIFE SHIFT』で知られる、ロンドン・ビジネス・スクールのリンダ・グラットン教授と、中教審会長でもある教職員支援機構の荒瀬克己理事長が登壇。「学校教育のSHIFTを構想する」をテーマに、人生100年時代を生きる子供たちに必要な教育の在り方、教師自身の役割や学びなどについて語った。

「スキルや健康、人間関係などの無形資産が重要に」

 グラットン教授はオンライン録画で講演。人々の寿命が長くなるにつれて「人生は教育・仕事・引退という3ステージからマルチステージに変わり、旅行や起業、ボランティアなど、人生の中でできることの選択肢が増えていく。その中で、教育は生涯を通じたプロセスとなる」と、新たな時代のライフステージについて解説。そこでは「個人が人生の選択をすることができる目的意識と主体性に加え、個人の選択を支える家族や友人などの人間関係、政府の支援が重要になる」と語った。

 子供たちに対しては「長い人生にどう備えるかを考える時、お金や仕事などの有形資産に目が向きがちだが、同じくらい大事なのが無形資産だ。自身のスキルや、そのスキルを生産的に活用する力、健康やバイタリティー、人間関係や友人関係といった無形資産が、長い人生を幸せに生きるために重要になる」と述べた。

 これからの教師の仕事について問われると、「子供たちの未来に向けて支援をすることだと思う。無形資産を身に付けさせるだけでなく、学びを好きになってもらうことも大切だ。生涯を通じた学びに駆り立てるのは好奇心だからだ」と回答。「これまでのマインドセットを変えていくには体験が必要で、好奇心はそこから生まれる。子供たちが世界に好奇心を持ち、探究し、世界の中で自分が担うべき役割を理解するよう後押ししてほしい」と語った。

 さらに学校の役割について「学校はファクトを学ぶ場所でもあるが、創造性を育む場でもある。AIや動画で学ぶことと、学校で教師に支援してもらったり、友人関係を結んだりするのとは違う。対面の学校では創造性や共感力、ソーシャルスキルを身に付けられるようにしてほしい」と述べたほか、「長い人生の中で友人関係は非常に大切で、友人関係の多くは学校で育まれる。学校は、各自のアイデンティティーを作る場であるとともに、友人関係という集団的なアイデンティティーを作る場でもある」とも語った。

 その上で「2030年までに、定型的なルーチンワークの多くは機械に取って代わられることになる。ちょうど今、学校に通っている子供たちが社会に出るころだ。その時、子供たちに必要になるのは人間としての創造性や共感力だ。さらに100年後になれば世界がどうなっているのかは分からないのだから、子供たちが好奇心を育み、生涯を通じて学び続けられるようにしておかなければいけない」と語り、「私たち教師は、社会でとても重要な役割を担っている」と、日本の教師にエールを送った。

荒瀬理事長「教師の学ぶ時間の確保がとても大事」

会場で参加者からの質問に答える荒瀬理事長
会場で参加者からの質問に答える荒瀬理事長

 次に登壇した荒瀬理事長は「学校だけのことではないが、わが国においては正解主義、同調圧力がある。これをどう乗り越えていくか。正解のないものに対してどう取り組んでいくかという練習を、学校にいる間にしておかなければ、(子供たちが)将来、困るのではないか。一方で、日本の学校教育では、子供たちの思考を深める発問を、教師がいろいろと工夫して取り組んできた。そういったことも大切にしつつ、誰一人取り残すことがない多様性と包摂性のある学びを提供していくことが大事だ」と説明。

 同時に「これは簡単なことではない。こういったことをしっかりやっていく、そのためにも教師の学ぶ時間の確保がとても大事だと思っている」と指摘。「昨今、教師はブラックな仕事と言われたりする。教師が本当に学び、学び合う時間の確保がされて、しっかりと学ぶことができない限り、子供が学び、学び合う学校は作れない。まずは教職員が主導していく必要がある。こういう学びの循環を大事にしなければならない」と述べた。

 その上で、2022年12月の中教審答申「『令和の日本型学校教育』を担う教師の養成・採用・研修等の在り方について」の中で、「教師の学びの姿も、子供たちの学びの相似形である」と書き込まれたことに触れ、「学ぶ対象や量は子供と大人で異なるが、『学んで力をつけていく』『学ぶことの喜びを得る』ということは、子供も大人も変わらない。子供の学びから教職員が学ぶ、教職員が学んだことを子供の学びに還元していくことが大事なのではないか。教職員の研修観の転換が必要だ」と強調した。

 講演後の荒瀬理事長と、宮田純也・未来の先生フォーラム2023実行委員長との対談では、会場から「自分の好奇心を思い出せなくなってしまった」と質問が出た。荒瀬理事長は「教師が本当に忙しくて、やりたいことを思い出せないという状況を何とかしなければ、子供の学びに良い形ではつながらない。まずはそのことを、声を大にして言っていきたい。同僚の教師とそんな(自分の好奇心についての)話ができる時間や心理的安全性があるかどうかも、大事ではないかと思う」と答えた。

 さらに「教師がもっと自由に発想ができるようなゆとりがなければ、子供たちの指導に影響する。教師たちにも声を上げてほしい。具体的に物事を考える時間がない、じっくりと子供たちと向き合う時間がないという状態を脱しない限りは、何事も絵に描いた餅になってしまう」と呼び掛けた。

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