超党派の国会議員でつくる「教育における情報通信の利活用促進をめざす議員連盟」(教育ICT議連)と学校設置者である市区町村の首長・教育長との意見交換会が8月24日、東京都千代田区の参議院議員会館で開かれ、全国の学校に整備されたタブレットなど1人1台の端末を巡り、GIGAスクール構想がスタートした当初に端末を国費で整備したように、更新費用についても国費負担とするよう強く求める意見が相次いだ。一方、文科省の担当者は、端末の活用状況について「自治体ごとにばらつきが非常にある」と問題点を指摘。出席者からは「自治体間の格差を解消していくためにも、更新費用はきちんと国費で対応していくことが非常に重要だ」との声が上がった。
意見交換会はオンラインを併用したハイブリッド型で行われ、与野党の国会議員と市区町村の首長・教育長ら約200人が出席した。司会は超教育協会の石戸奈々子理事長(特定非営利活動法人CANVAS理事長)が務めた。
最初にあいさつした教育ICT議連の遠藤利明会長(元五輪担当相)は、1人1台端末について「当初は八百数十万台を全部無償で支給したが、そろそろ更新の時期になり、『(保護者が費用を負担する)ランドセル化してはどうか』という意見もあった。しかし、全国ICT教育首長協議会などから『スタートなのだから、もう1回、国がしっかり責任を持って対応してほしい』と強い声をいただき、骨太の方針に、国策としてICT教育を進め、端末更新を着実に進めるとして、国が責任を持って対応する覚悟を示すことができた」と、ランドセルや文房具のように端末更新についても保護者負担を求める議論が出ていた経緯を説明。
「大事なのは、それぞれの地域や学校での取り組み。良い実践のモデルを示し、個別最適化された教育を進めていただきたい」と続け、端末のさらなる活用を促した。6月に閣議決定された「骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針2023)」では、GIGAスクール構想について「国策として推進するGIGAスクール構想の1人1台端末について、公教育の必須ツールとして、更新を着実に進める」と明記されている。
教育委員会の立場から報告した戸ヶ崎勤埼玉県戸田市教育長は「骨太の方針では、GIGAスクール構想の1人1台端末について異例とも言える文言が記載された。しかし、あまり端末を使っていない自治体が、国にだけ(国費負担の)努力を求めていくということは、私は無責任であると思っている」と、活用が遅れている自治体の課題を指摘。「この学びの武器を存分に使い倒していくことで、国費での端末更新を実現してほしい」と自治体関係者を引き締めた。
文科省の浅野敦行学習基盤審議官は、今年4月に行った全国学力・学習状況調査の質問紙調査で、授業での1人1台端末の活用状況を聞いたところ、「ほぼ毎日」と「週3回以上」と答えた都道府県が全体の89.7%を占めた一方、6~7割程度にとどまっている都道府県が複数存在しているとの調査結果を示し、「端末の活用について、自治体ごとにばらつきが非常にある。細分化して市町村ごとにみてみると、さらに利用状況が大きく異なっている。これは首長や教育長の活用に対する思いが、自治体ごとのばらつきに現れていると思っている」と述べ、端末活用を巡る自治体間のばらつきの改善が当面の課題との認識を示した。その上で、文科省の対応について「伴走支援を強化して、各自治体の教育委員会に寄り添って行政を進めていきたい」と話した。
この説明を受け、超教育協会GIGAスクールWGの鈴木寛座長(東大・慶大教授)は「自治体間の格差が広がっている中で、これを解消していくためにも、更新費用はきちんと国費で対応していくことが非常に重要だ」と指摘した。
市区町村の首長と教育長からは、端末更新費用の国費負担を巡り、さまざまな要望が相次いだ。金子廣志埼玉県新座市教育長は「1人1台端末として導入した端末の7%がこれまでに故障し、修理費が4660万円かかった。これは家庭に常に持ち帰って活用するようにした結果なので、この程度の故障率はやむを得ないと考えているが、こうした修理費についても、国費負担として考えてほしい」と述べた。
遠藤洋路熊本市教育長は、円安の影響で端末価格が値上がりしていることを問題視し、「以前は4万5000円だったiPad端末が、今は5、6万円ぐらいする。国費負担にあたっては、物価高騰に伴う端末の値上げ分についても考慮してほしい。文科省が設定している1台当たり4万5000円だと、今後は厳しいかなと思っている」と訴えた。
締めくくりのあいさつを行った教育ICT議連の盛山正仁幹事長(元法務副大臣)は「市区町村によって取り組みや熱意の差がある。国の政策として、全国どこであっても同じような教育を享受できるようにするために、それをさらに一層高めて地域的なカラーをつけていけるようにするために、国として何をどこまでやるのか。課題は大変大きい」とした上で、「今回は(端末費用として)2回目の予算になる。1回だけの措置ではなく、制度として固定化していくことになるので、財政当局との折衝でも、1回目以上に厳しく高いハードルがある」と説明した。