中教審特別部会が教員の働き方改革や処遇改善を巡る緊急提言をまとめたことを受け、永岡桂子文科相は8月29日、省内の幹部を集めた「学校における働き方改革推進本部」に出席し、「国が先頭に立って改革を進める」「学校・教育委員会は、できることは直ちに実行を」と訴えるとともに、保護者や地域住民に学校業務の精選や見直しに対する理解と支援を求めるメッセージを発出した。これに先立ち、永岡文科相は同日の閣議後会見で、一連の改革の到達点となるゴールについて、「中教審の提言が示した方向性を達成し、教師が教師でなければできないことに全力投球できる環境の実現を目指す」と説明した。
文科省の「学校における働き方改革推進本部」は、中教審が学校における働き方改革について答申をまとめた2019年1月、答申内容を実行するため、文部科学大臣を本部長として設置された。今回で7回目の開催となる。
推進本部会合の最後にあいさつした永岡文科相は「質の高い教師の確保のための環境整備は、働き方改革、教師の処遇改善、そして学校の指導運営体制の充実、この3つを一体的そして総合的に推進していくことが必要だ」と指摘。その上で、「その中には時間をかけて議論を深めていく必要があるものも含まれているけれども、一方で、中教審特別部会の提言からも感じるのは、子供たちのために教師を取り巻く環境をより良いものにしていくことが待ったなしである、という強い思いだ。提言の『できることは直ちに』という考えは、私も同じ」と提言の受け止めを語り、メッセージの要点を説明した。
メッセージではまず、「国が先頭に立って改革を進める」と宣言した。「教師を取り巻く環境整備の加速化に向け、大幅な教職員定数の改善や、支援スタッフの大胆な配置充実など、これまで以上に力強く教育予算を確保する」と、予算確保に向けた決意を表明。また、「業務の精選・見直しを国が率先して示す。『やめようと思っても、さまざまな理由により、やめられない』との声は、私にも届いているが、働き方改革、そしてその先のより良い教育につながる取り組みは文科省として全力で応援するので、このメッセージを業務改善に向けた旗印として活用してほしい」と続けた。
次に、「学校・教育委員会は、できることは直ちに実行をお願いする」と訴えた。「働き方改革は国だけでは進まない。中教審の提言では、例えば、標準授業時数を大幅に上回っている教育課程編成の見直しをはじめ、各主体に求められる対応が整理されているので、今からできることは直ちに着手いただくようお願いする」と、学校現場や教委の対応を強く求めた。
3番目に、保護者、地域住民に対し、「教師が教師でなければできない業務に集中し、そして教育の質を向上させるためには、学校・家庭・地域の連携分担や学校の働き方改革が必要であり、皆さんの力がこれまで以上に求められている。業務の優先順位を踏まえた思い切った精選・見直しや、皆さんとの役割分担の見直しなどの相談についても、理解と支援をいただきたい」とアピールした。
最後に「このメッセージを旗印に、教師を取り巻く環境整備につなげていくことを誓う」と述べ、説明を終えた。
推進本部会合に先立ち、永岡文科相は閣議後会見で、記者との質疑に応じた。中教審特別部会の緊急提言が改革の具体的な工程を示すように求めていることについては「提言では、来年度に向けて準備が必要なものは今から計画的に取り組むとともに、今年度からできることは直ちに着手することが求められている。このため文科省では、学校における働き方改革推進本部を開催し、取り組みの加速化に向けて大臣メッセージを出すとともに、来年度予算の概算要求で必要な経費をしっかりと盛り込む。また、6月に閣議決定された『骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針2023)』では、24年度から3年間を集中改革期間とし、小学校高学年の教科担任制の強化、教員業務支援員の全小中学校への配置拡大を速やかに進め、24年度中の給特法改正案の国会提出を検討することなどが盛り込まれている」と、取り組み状況を説明。
その上で、「中教審は(学校の働き方改革と教員の処遇改善について)来年春ごろに一定の方向性を示すことをめどとして、さらに議論を深めていくことにしている。こうした検討を踏まえながら、改革の具体的な工程を示すことになると考えている」と述べ、改革の具体的な工程については中教審での審議状況を見ながら判断していく考えを示した。
3年間の集中改革期間をはじめ、一連の改革の到達点となるゴールをどう考えるかとの質問に対しては、「中教審特別部会の提言では、今般の改革の目指すべき方向性として、一つは教師のこれまでの働き方を見直して長時間勤務の是正を図り、教師の健康を守ること。もう一つは、高度専門職である教師が新しい知識や技能などを学び続け、それによって子供たちに対してより良い教育を行うことができるようにすること、が示された」と指摘。
それらを踏まえた取り組みとして、「3年間の集中改革期間を通じて、働き方改革、処遇の改善、そして学校の指導運営体制の充実を一体的に進める」と述べ、改革のゴールについて「中教審の提言が示した方向性を達成し、教師が教師でなければできないことに全力投球できる環境の実現を目指す」と説明した。
ただ、実質的な残業時間に当たる時間外在校等時間や、教員1人当たりの授業時数(持ちコマ数)など、目標値を掲げたゴール設定について問われると直接的な答えを避け、「3年間の集中改革期間が終わったときに、教師が本当に教師にしかできない仕事をしっかりできるようにすることが、今の考えとなっている」と述べて理解を求めた。
自民党は5月11日にまとめた政策提言「令和の教育人材確保実現プラン」で、時間外在校等時間について「将来的には月20時間程度を目指す」としたほか、小学校高学年の学級担任の持ちコマ数を「週20コマ程度」とする目標値を掲げている。