インクルーシブ教育の実現へ 東大と障害当事者団体が協定

インクルーシブ教育の実現へ 東大と障害当事者団体が協定
連携協定に調印した東京大学大学院教育学研究科とDPI日本会議(Zoomで取材)
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 日本でのインクルーシブ教育を発展させていくため、東京大学大学院教育学研究科と全国各地の障害者の当事者団体で構成するDPI日本会議は8月31日、フルインクルーシブ教育事業に関する連携協定を結んだ。連携協定では障害の有無によって分け隔てることのない共生社会の実現や、障害は個人の特性ではなく、制度や差別、偏見など社会の側にあるという「障害の社会モデル」の理解に向けて、小中学校向けの研修カリキュラムや大学生向け教育カリキュラムの開発などに取り組む。

連携協定に調印した東京大学大学院教育学研究科とDPI日本会議(Zoomで取材)

 昨年9月に国連の障害者権利委員会は日本政府に対して「障害のある子どもの分離された特別教育が永続している」と指摘し、その中止と、障害のある子どもが地域の学校で学べるようにするアクセシビリティーや、障害のある子どもに対する合理的配慮を保障し、インクルーシブ教育を確保することなどを勧告した総括所見を出している。

 こうした動きを受けて、連携協定では▽日本的な共生の思想についての国際的発信▽大学生向け教育カリキュラムの開発▽政策提言の強化への反映▽小中学校向け研修カリキュラムの開発――の4つの柱を軸に、学術組織と障害者団体が双方の強みを生かして、障害者権利条約が掲げるインクルーシブ教育を日本の学校現場で根付かせ、共生社会の実現を目指す。

 連携協定の調印にあたって開かれたトークセッションで、DPI日本会議の尾上浩二副議長は、自身の養護学校(当時)から地域の公立中学校に入学したときの経験や障害者運動との関わりを振り返り、「友達との出会いは大きかった。それまで施設や養護学校でしか過ごしたことのなかった子どもにとって、家のすぐ近くに同じ学年の子がいるのは新鮮な驚きだった。その友達に誘われてレコードを親の付き添いなしで生まれて初めて電車に乗って買いに行った。自分の世界が広がったのは地域の学校に行ったからだ」とインクルーシブ教育の意義を強調した。

 その上で「50年前と比べると(障害者運動で)いろいろなものを獲得してきたという思いもあるが、一方で変わらないものもある。分離教育からインクルーシブ教育への転換はまだ途上にある。あるいは病院や施設からの地域移行もそうだ。インクルーシブ教育と脱施設が残された本丸だという思いがある。総括所見でも、見事にそれを言ってくれた。自分たちの運動で残されていた課題を、総括所見を生かして変えていけると大きな期待を持って読んだ。しかし、残念ながらその総括所見に対する日本の政府や社会の対応はまだまだだ」と日本の課題を挙げた。

 東京大学大学院教育学研究科附属バリアフリー教育開発研究センター長を務める小国喜弘教授は「学校は(障害を心身機能による個人の側の問題として捉える)『障害の医療モデル』が強く機能している場所となっている。障害種別、障害の程度で学びの場を分けることが戦前から制度化され、戦後の高度経済成長の中で非常に強固なシステムとして駆動してきた経緯がある。2007年に特殊教育から特別支援教育に転換したが、それでも学問の体制、学校現場の体制自体は変化することなく、われわれ(バリアフリー教育開発研究センター)は『障害の社会モデル』を何とか学校に根付かせたいと活動を開始したが、現実の学校や学問を動かすところにまではなれなかった」と、これまでの日本の学校教育や学術研究の姿勢について問題提起。

 「今後、一歩、二歩と前進させるためには、われわれだけでは限界がある。障害の当事者の団体とタッグを組むことで、当事者参画の中でのインクルーシブ教育を前提にして、どういう学問の変革が必要なのか、教育の変化が必要なのかを、膝を突き合わせて協働しながら新しい一歩を築きたい」と、連携協定に期待を寄せた。

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