学校の芸術教育の将来像を議論している文化庁の「文化芸術教育の充実・改善に向けた検討会議」は9月8日、第3回会合をオンラインで開き、STEAM教育やアート思考の観点からの芸術教育の価値について、委員が発表を行った。会合には文化庁の合田哲雄次長も出席し、「この1、2年しかできない教育のアーキテクチャに関わる大きな議論をいただきたい」と、学習指導要領の改訂を視野に入れた学校の芸術教育の土台づくりが進むことに期待を寄せた。
2018年の秋に文化庁に学校芸術教育室が新設され、文科省から学校での芸術に関する教育の基準設定の事務が移管されたことを受けて、文化庁では学校で行われる芸術教育の拡充に力を入れている。検討会議は今年度中に結論をまとめる。次回会合でここまでの議論を踏まえた中間整理案が示される予定。
これまで学習指導要領の改訂作業などに携わってきた合田次長は、会議冒頭のあいさつで「(学習指導要領は)2017年が前回の改訂だったので、これまで通りの10年に1度の改訂となると次は27年ということになる。残り4年だが、後半2年間は具体の教育内容の積み上げの議論しかできないので、コンテンツにしても教科の在り方にしても、大きなアーキテクチャを変える議論というのは今年と来年しかできない。次の改訂は1人1台の情報端末が配られたGIGAスクール構想が19年から始まって以降、初めての改訂になるので、これはこれまでの改訂とは質的に異なることになると思う」と強調。
次の学習指導要領は▽子どもたちの特性や関心に応じた教育の個別化が進む▽これまでのようにみんなと同じようなことができるようになる基礎学力ではなく、多様な他者と共生する、共生の作法としての基礎学力とは何であって、それを共有する社会システムとして学校を捉え直す▽カリキュラムオーバーロードの問題を受けての、教科の本質を踏まえた教育内容の重点化や教育課程編成の弾力化――がポイントになると解説した。
その上で「文化芸術教育は音楽的な見方・考え方や造形的な見方・考え方を働かせて、この分野について深く考えたり表現したりする上で、どういう構造や内容が重要なのか、もう一度フラットに考えていく必要があると思っている。文化庁に文化芸術教育のイニシアチブを取る権限があるので、ぜひこの1、2年しかできない教育のアーキテクチャに関わる大きな議論をいただきたい」と、検討会議の議論に期待を寄せた。
この日の会合では、中島さち子委員(steAm代表取締役、大阪・関西万博テーマ事業プロデューサー)がSTEAM教育の観点から、末永幸歩委員(アート教育者、東京学芸大学個人研究員)がアート思考の観点から、それぞれ芸術教育の価値について発表を行った。
中島委員は「アートとは何かと言ったときに、単純に絵を描いたり、何かをつくったりするだけというよりは、背後にある本質を見いだす、自分なりの言葉でストーリー化する、コンセプトをつくる、あるいは哲学を表現するといった力がアートであり、それは全てのイノベーションにとって非常に重要だ。これがあまり芸術教育の中で語られてきていないかもしれない」と指摘し、問いを創り出す力としてのアートの役割を説明。さまざまなSTEAM教育の動きを紹介しながら▽学校と地域、アーティストをつないでいくコーディネートを支援していくこと▽コンセプトをつくるなどのキュレーション的な視点の育成を価値付けすること――などを提案した。
「美術」の教員経験がある末永委員はアート思考と「図画工作」や「美術」の見方・考え方の関係について、「アート思考はアートならではの見方・考え方だと思っている。学習指導要領では各教科における見方・考え方があり、図工・美術は造形的な見方とされている。造形的な見方と言うと色や形の側面から世界を見るのが、図工・美術のものの見方だと思うが、それは図工・美術のたくさんあるものの見方のうちの一つの側面でしかないと思っている。図工・美術のものの見方はもっと広いものではないか。アートのものの見方はさまざまなものの見方を横断して、そこから自分なりのものの見方や考え方を生み出していく。それ自体が図工・美術のものの見方なのではないか」と問題提起した。
また、末永委員は学校現場で行われている探究学習に対しても、「私たちが探究と言ったときに、科学的な探究ばかりを目指していたのではないか。数字で表せるデータが必要である、客観的な根拠に基づいて論理的に考える、それが探究だと。しかし、アートの探究が科学の探究とは別にあるとしたら、想像や空想のものの見方を働かせて、『私はこう感じた』という主観を深めていくことも一つの仕方だと思う」と投げ掛けた。