台湾はジェンダー平等に関し、アジアで最も進んだ国である。台湾政府の「性別平等処」がまとめた『2022年性別図像』によれば、調査対象157国のうち平等度の高さで38位となっている。韓国の103位、中国の108位、日本の121位を大きく引き離している。女性の社会進出も進んでおり、2020年で国会議員の女性比率は42%、大卒は53%、修士号取得者は44%だった。同年にアジアで最初に同性婚を合法化した国でもある。10年に政府内に「性別平等処」を設置し、男女の平等やセクハラ禁止などを促進している。また、昨年8月に毎年4月20日を「ジェンダー平等教育の日」として、教育現場でのジェンダー平等を促進する活動を行っている。そうした政策に基づき、台湾では全ての学校のトイレに生理用品が置かれている。
現在、台湾は「性平三法」で学校、職場、公共の3つの場での男女平等を確保している。「性平三法」とは、教育現場での男女平等を実現するための「性別平等教育法」と、職場での平等を実現するための「性別工作平等法」、公共の場でのセクハラを禁止する「性騷擾防治法」の3つの法律である。04年に成立した「性別平等教育法」は、同法の目的を「ジェンダーにおける実質的な平等を促進し、ジェンダー差別を解消し、人格の尊厳を擁護し、ジェンダーの観点から平等な教育資源および教育環境を育み、築き上げる」と規定している。
同法には「学習環境と資源」「カリキュラムと教材、教育」「キャンパスにおける性暴力防止、セクシャル・ハラスメント、いじめ防止」「調査と救済」といった項目が掲げられている。特徴は、男女間の平等やセクシャル・ハラスメントの防止に留まらず、同性愛者、バイセクシャル、トランスジェンダーなど性的少数派の保護も盛り込まれていることだ。学校で積極的にジェンダー教育を推進している。この「性平三法」の修正が立法院(議会)で7月31日に可決され、来年の国際女性デーの日である3月8日から施行されることになった。
『チャイナ・タイムズ』は7月14日に「男女平等法の新しい規則は教師と生徒のロマンスを禁止する」と題するセンセーショナルな記事を掲載した。同記事は、同法の改正は「行政院は権力と暴力を明確に定義」し、違反者に対する罰則を強化することを狙っていると説明している。この改正で、「校長や教員が不平等な力関係を利用して教え子と親密な関係を築くことを禁止する条文」が盛り込まれた。具体的には、「教員と生徒がプライベートでデートしたり、映画を観たり、親密な名称で呼び合ったり、電話での親密なやり取りや性行為は法律に違反する可能性があり、違反した場合、校長と教員は永久に解雇される可能性がある」と説明している。また、大学で学生が成人であっても、不平等な権力関係を利用して親密な関係を築いてはならないという規定も盛り込まれている。
さらに従来の「学校内でのジェンダー事件」の規定を、より具体的に「性暴力」「セクシャル・ハラスメント」「性的いじめ」「校長と教員による性やジェンダーに関する職業倫理違反」の4つに区分。学校に設置された「ジェンダー平等教育委員会」の委員は女性を2分の1以上とし、教員や職員、保護者、児童生徒・学生、ジェンダー問題の専門家をそれぞれ委員にすることも規定されている。違反者が校長や教員である場合、調査チームのメンバーは全て外部から選出されることになる。また被害者が調査結果に不服な場合、再調査を行うことも規定されている。
他にも法律改正で、教育部は6カ月以内に「学校における性的暴力、セクシャル・ハラスメント、いじめ防止と管理のためのガイドライン」を策定することを義務付けられている。
改正法では被害者保護に関する特別な章が加えられ、「メディアが被害者を特定するのに十分な情報を知っている人は厳重に秘密を守り、違反した場合、最高60万元の罰金が課せられる」と、被害者の二次被害の防止も盛り込まれている。また被害者が未成年の場合、成人して3年以内に苦情を申し立てることができるとしている。
日本から見れば、思い切った改正である。日本では、学校現場における性的な問題が表立って議論されることはほとんどない。日本版DBSが議論され、教育現場での性に関する問題が注目されているが、台湾に比べると、問題に対する取り組みは腰が引けている感じは否めない。