子どもや若者の自殺対策について、若者自身が考え、表現する「いのち支える動画コンテスト2023」(主催:いのち支える自殺対策推進センター)の表彰式が9月9日、オンラインで開かれた。今年4~6月にかけて絵コンテの募集が行われた同コンテストでは、全国から138点の応募があり、2段階の審査を経て、優秀賞に選ばれた4作品の動画化が実現。授賞式では受賞した学生らがそれぞれ、動画に込めた思いを語った。
自分の心を守る「セルフケア・SOS部門」で優秀賞を受賞したのは、筑波大学大学院生の齋藤真衣子さんと、多摩美術大学2年生の木下望有(みゆう)さん。齋藤さんは「誰かに相談することで気持ちが軽くなったり、問題が解決できたりする反面、自分の状況や気持ちを言葉にすることがなかなか難しく、何と言えばよいか分からないという気持ちになって、抱え込んでしまう人もいる。うまく話せなくても誰かに打ち明けてみようという、一歩を踏み出せる作品を作りたいと思った」と話した。
また木下さんは「私自身、悩みが絶えない学生。動画を作ることで自分の思いを昇華させたい気持ちがあった。悩みが積み重なって、自分の内だけにため込んでしまうことがある。下を向いている時に、手を差し伸べてくれる誰かに悩みを伝えてほしい、悩みを共有してくれる人をぜひ頼ってほしいという思いを込めた」と語った。
死にたい気持ちを抱えた友達を支える「ゲートキーパー部門」では、佐賀県の高校1年生の愛純百葉(あすみ・ももは)さんと、金沢工業大学大学院生の山下真愛(まな)さん、下出遥華さんが優秀賞を受賞。愛純さんは「(動画に登場する)一人でご飯を食べている女の子、(その子に)話し掛けに行く女の子を、どう撮ったらつらい気持ちが伝えられるか、勇気をもって話し掛けに行くシーンを表現できるかを考えながら撮影した」と振り返った。
山下さんは「私たちは自殺願望を抱えたことがある。実体験を映像にできないかと考えて応募した。自殺願望まではなくても、笑顔でいるけれど本当は苦しい、疲れていることもあるし、悩みがなさそうだと言われて傷つくこともある。笑顔の裏には、もしかしたらしんどい思いがあるかもしれないと分かっていれば、一つ一つの声掛けが変わってくるかもしれない」とコメント。また下出さんは「迷惑を掛けたくないという気持ちから笑っていることもある。笑顔の裏側にも気付いてほしいというメッセージを込めた」と思いを語った。
審査員長を務めた、いのち支える自殺対策推進センターの清水康之代表理事は「私たち大人が、若者たちに心配してもらわなくてもよいように、しっかりと対策を進めていかなければならない。その意味では、若者たちに自殺問題を自分ごととして捉えてもらわなければならないこの状況について忸怩(じくじ)たる思いがあるし、ある意味、申し訳なく思う」と話した。
しかし同時に「今回のコンテストを通して、若者と一緒に取り組んでいくことの重要性を実感した。若者の完成や思いを表現してもらえる場を、大人たちがいかに作っていくか、いかにそれを形にするのを応援し、一緒に形にしていくかが、子どもや若者の自殺対策を進める上で、大人たちに問われていると感じる」とも述べた。優秀賞に選ばれた4つの動画はYouTubeで見ることができ、教育機関や自治体で自由に引用することが可能になっている。