日本のインクルーシブ教育からヒントを 17カ国の教育関係者が視察

日本のインクルーシブ教育からヒントを 17カ国の教育関係者が視察
同校5年生と交流した各国の研修員。それぞれの食文化や挨拶などを児童に紹介した
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 日本のインクルーシブ教育を学ぶため、JICA横浜の研修で日本を訪れている世界17カ国の教育関係者が9月14日、神奈川県海老名市立今泉小学校(和田修二校長、児童938人)を視察した。同校では今年度から校内研究でもインクルーシブ教育をテーマに取り組んでおり、特別支援学級や校内フリースクールのステップルームなどを見学した各国の教育関係者からは「一人一人の特性に応じた指導をしているところが素晴らしい」などと声が上がった。

 JICA横浜では2014年から課題別研修「インクルーシブ教育制度強化~ともに学び共に生きる~」を実施しており、今年度はアジア、アフリカ、中南米など世界17カ国から17人の研修員を招き、8月28日から9月30日まで研修を実施している。なお、今回の研修は、各国において政策立案プロセスに関わっている人を対象としている。

 期間中、研修員は日本のインクルーシブ教育システムを学ぶために大学で講義を受けたり、特別支援学校や小学校、高校を視察したりするなどし、自国の障害のある子どもの教育改善に向けてアクションプランを作成する。

 この日はインクルーシブ教育に取り組む今泉小学校に17人の研修員が訪問した。和田校長は「本校には、特別支援学級が6学級、その他にも国際級、教室に入るのが難しい子どもたちが過ごすステップルームなどがある。今年、目指す学校像を『一人ひとりの個性を大切にする学校』 とした。全教員でインクルーシブ会議や校内研究を行い、どうすれば全ての子どもたちが学校で安心安全に過ごせるのかを話し合っている」と同校の取り組みについて紹介。また、通常学級でも1人1台端末を活用して自由進度学習に取り組むなど、個別最適な学びを目指していると説明した。

 その後、研修員は通常学級やステップルーム、国際級、特別支援学級などを見学。スリランカの教育省ノンフォーマル教育・特別教育支部教育副部長のクマラさんは「子どもたちがタブレットを使って自分で学習したり、多彩な活動をしたりしていることに驚いた」と、同校の印象について話した。また、特別支援学級では、子どもたちがそれぞれ別のことに取り組み、個別に学習している姿を見て、「スリランカでは、小学生でも試験が重要視されていて、教員は全体に向けて教え込むことがほとんどだ。それぞれの特性などに合わせて教えているのは、とても素晴らしい」と興奮した様子で話した。

 質疑応答の時間では、日本の不登校について研修員から質問や意見が相次いだ。同校にも不登校の児童がいるとのことだが、その要因はさまざまで、ステップルームを活用したり、オンライン学習教材を活用したりしているという。ケニアのケニア特別教育研究所のハワさんは「ケニアでは学校に来たくない子には厳しい。しかし、この学校ではステップルームやオンライン学習など、フレキシブルに対応している。とてもインクルーシブな教育だと感じた」と話した。

 また、他の研修員からは「ステップルームは少人数だったが、そこで社会性を育てることはできるのか」と質問が上がった。それに対し、同校からは「通常学級で参加できる授業には参加しているし、ステップルームに来た子どもたち同士で関わり合っている。また、休み時間はステップルームを開放しており、その時間はいろいろな子どもたちがくる。そこでコミュニケーションをとっている」と説明した。

 ベリーズの教育省特別教育部特別教育担当事務官のマイラーさんは「ステップルームには怠けたい子が来てしまうのではないかと、最初は心配した。しかし、通常学級で過ごしづらいなどといった特性のある子もいるし、通常学級の教員だけでは支援しきれない。ステップルームのような場があることは、とても素晴らしい支援の在り方だと思った」と感想を述べた。

 和田校長は、各国の研修員と意見を交わしながら、「これまでは子どもが学校に合わせていた。しかし、これからは学校が子どもたちに合わせていく時代だと思っている。これが本校の基本的な考え方だ」と強調した。

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