盛山正仁文科相は10月4日に行われた報道各社の共同インタビューで、ChatGPTをはじめとする生成AIに学校現場がどのように対応すべきかについて、「文明の利器をどううまく使いこなすか、という使い方の問題だ」と指摘した上で、「学校教育のICT化は、紙や鉛筆、ノートも教科書もなくして、タブレットで全部やろうというようなことを目指しているわけではない。大事なことは、(子供たちが)自分の体で感じて、自分の頭で考えることだ」と述べた。共同インタビューの詳報は次の通り。
--ChatGPTをはじめとする生成AIなど新たなデジタル技術について、学校現場で積極的に子供たちに触れさせていくべきだと考えるか。
私は教育ICT議連の幹事長として議員立法を作り、予算5300億円を確保して、小中学校の1人1台の端末支給など学校教育のICT化に向けた旗振りをしてきた。(文科相に就任したので)学校現場がどうなっているのかと思い、先週(9月28日)、茨城県つくば市にあるみどりの学園義務教育学校を見に行った。
そこでは、小学1年生からデジタル教材が普通に使われていた。小学校高学年の授業では、教員がChatGPTを使いながら、「(ChatGPTは)こう言っている。あなたはどう思うか」という聞き方をしていた。私は「学校の授業はもうここまで来ているんだ」と、びっくりした。
ただ、その教員がうまく授業をしているな、と私が思ったのは、「ChatGPTがこう言っているから、こうですね」という教え方ではなかったところ。ChatGPTが出した答えに対して、「あなたたちは、どう考えるか」という授業だった。
ChatGPTは、最初にプログラムを組まれていて、いま知り得ている情報を入れ、その中でコンピューターが答えを出してくれる。その答えはそれなりに蓋然(がいぜん)性が高いのかもしれないが、入れ込んでいない情報についての判断はできない。あるいは自分の好き嫌いとか、自分はこうしたいとか、自分の心で感じ、自分の頭で考えていくものではない。
だから、その文明の利器をどううまく使いこなすか、という使い方の問題だ。
学校教育のICT化は、紙や鉛筆、ノートも教科書もなくして、リアルな世界を全てなくして、タブレットで全部やろうというような、そんなことを私たちは目指しているわけではない。
学校教育では、やっぱりリアルなものが一番大事だと私は思っている。例えば、生物の授業で屋外に行き、暑いだとか、寒いなとか、水の流れが意外に速いとか、ハチが飛んできたとか、そういうようなものは、端末の画面で見るだけでは分からない。
ただ、環境が変わっていくのは止められない。だから、そういう変化をいかにうまく生かすのかが大事だ。
教育の観点でいくと、大事なことは(子供たちが)自分の体で感じて、自分の頭で考えることだ。学校では基礎的な部分を教えて、その上での応用は、一人一人の子供が自身の力で考えて見いだしていく。それを一人一人の子供に学んでもらう。あるいは、それを子供たちが身に付けていくための手伝いをする。それが学校ではないかと思う。その中で、(ChatGPTは)うまく使ってもらうことが大事なのであって、頼りきるのはいけない。
--いじめ重大事態の件数が増え、過去最多になっている。どのように対応するか。
いじめ重大事態の件数は増加傾向が続いており、そのうちの約4割が重大事態に至るまでいじめとして認知できていない。この点については大変憂慮すべき状況であると考えている。
いじめ重大事態を減らすためには、いじめの疑いがある段階から早期に対応しなければならない。いじめの芽が出てきたときにどうやって把握するのか、同時に教師個人で判断するのではなく、学校におけるいじめ対策組織に報告相談するなど、積極的にいじめを認知し、組織的に対応していくことが重要になる。
学校のみでは対応しきれない事案も多いので、文科省としては犯罪行為として取り扱われるべきものについては、直ちに警察に相談通報しなさい、といった趣旨の周知を行っている。
--「いじめはあってはならない」という考え方が、隠ぺいや発見の遅れにつながっている可能性があるのではないか。
「あってはならない」という認識を皆さんが持つことは必要ではないか。いじめ自体は、私も自分が子供のときに受けた経験はある。ひょっとすると、私も気が付かずにいじめをやっていたかもしれない。いじめは、やっぱり許されないもの、なくしていかなければならないものではないかと思う。
大人に比べて子供は純粋だから、その分、自分の気持ちがストレートに出て、いじめという行動につながったり、それで苦しんだりしていくことは十分にあり得る。どういう子供でも、どういう学校であっても、いじめが起こりうることは、学校や教育委員会、そして社会全体で共有すべきものではないか。そして、いかに早い段階から、深刻にならないうちに気付いて、対応を図っていくのか。それが大事だと思う。
時代が変わり、匿名でインターネットで批判し、それが拡散しやすいことも含め、陰湿ないじめが起こりやすい環境になっている。だからこそ、今の時代に合ったいじめ対策をどうするか。学校の教員だけではなく、保護者も含めて、いかに素早くいじめに気付き、それへの対応を図っていくのか。当事者の心に少しでも寄り添っていけるような対応が図られれば、ありがたいと考えている。
--不登校の増加にはどのように取り組むか。
不登校児童生徒数は増加傾向が続いており、喫緊の課題だ。本年3月に取りまとめられた不登校対策「COCOLOプラン」では、不登校の児童生徒全ての学びの場を確保し、学びたいと思ったときに学べる環境を整え、心の小さなSOSを見逃さず、チーム学校で支援すること、学校風土の見える化を通して、学校をみんなが安心して学べる場所にすることを柱にしている。
来年度予算の概算要求においても、学びの多様化学校や校内支援センターの設置促進などの予算を115億円計上している。引き続き、しっかり取り組みたい。
--教員のなり手不足にどう取り組むか。
昨今の教員不足の状況については大変重要な課題であると認識している。ただ、これは教員だけではなくて、他の分野においても同じように、働き方改革その他で人手が足らないと言われている。全体の中でも考えていかないといけない課題だ。
教職の魅力を高めていくためには、学校における働き方改革、処遇の改善、学校の指導運営体制の充実、教師育成の支援が重要であることから、それらを一体的に進めていく必要がある。その上で、現在の教員不足に対応していくためには、教員免許保有をはじめとした新たな外部人材の確保が必要だ。また、教員採用選考の工夫や改善も重要であると考えており、教員採用選考試験の早期化や複数回の実施、そして社会人の多様な人材を対象とする特別選考の拡大といった取り組みを促していきたい。
--段階的に進めている小学校全学年の「35人学級」を中学校にも拡大する考えはあるか。
2021年3月に義務標準法を改正して公立小学校の学級編制の標準を35人に引き下げた。ただ、何人が適切かは、簡単に答えの出ない課題だと思うが、一人一人に応じたきめ細やかな指導が必要であり、それは小学校だけではない。学力の育成やその他の教育活動に与える影響などについて検証等を行った上で、中学校を含め、学校の望ましい指導体制の構築に向けて取り組んでいく。
教員の立場からすると、きめ細かい指導するためには対象となる人数が少ない方が望ましいに決まっている。究極的にはマンツーマンが一番いいのかもしれない。ただ、人手不足という点も含め、教員の働き方改革、労働環境の改善も言われており、そう簡単にいかないのも事実。(小学校で)今進めているもののメリット・デメリットについて検証を行いながら、小学校以外も検討を進めていく。
--給特法を巡り、残業時間に応じて残業代を支払う仕組みにしないと、教員の残業時間は減らないとの指摘がある。給特法の改正にどう取り組むか。
現在の給特法の仕組みでは、公立学校の教員は、その自発性・創造性に基づく勤務に期待する面が大きいことなどにより、どこまでが職務であり、どこまでがそうでないのか、切り分けが難しいという教員の職務の特殊性から、時間外勤務手当ではなく、勤務時間の内外を包括的に評価するものとして、教職調整額を支給することとされている。
教員の処遇を定めた給特法の在り方も含め、今後具体的に検討していくべき課題と認識している。そして現在、中教審において総合的に検討を進めている。引き続き、教育の質の向上に向けて、働き方改革、処遇の改善、学校の指導運営体制の充実を一体的に進めていきたい。これからまだしばらく時間がかかると思う。
--小中高、大学時代を振り返って印象に残っている教員のエピソードは何か。
印象に残っているのは、中学1年生の担任だった数学の先生。この先生に「君たち、好奇心を持ちなさい。興味を、関心を持ちなさい」と言われた。これは、すごくいい言葉だった。「君はどういうところを不思議に思ったの」「どうしたいの」と言いながら、興味を持たせ、(子供は)自らの力で学んでいく。興味さえ持てば、学校の授業かどうかは別にして、(子供は)放っていても自分で調べる。これ不思議だなとか、なんでこうなっているんだとか。それは大事なことだったと思う。