学校現場に議論を巻き起こしている生成AIの活用に早くから取り組み、実践を重ねてきた山形県高畠町立和田小学校の近野洋平教諭。そうしたチャレンジ精神はどのように培われたのか。「AI活用のリアルを発信していきたい」と語る近野教諭に、インタビューの第2回ではAIと向き合う子どもの姿、新たな実践に取り組むエネルギーの源などについて聞いた。(全3回)
――「授業のメンバーの一員としてChatGPTを使う」という授業について、授業を受けた子ども以外からの反応はありましたか。
「ChatGPTの衝撃 異次元のAIとどう向き合う?」と題したNHKの番組で取り上げてもらった時、NHK社内でデモ上映があったそうなのですが、その際に評判が良かったのは、私の授業で起きた教室の事実だったと記者の方からお聞きしました。
これから大人になっていく子どもたちがAIについて考えている姿に、すごく胸を打たれたという話でした。教育現場からの発信は、「世の中を動かす」とまではいかなくても、社会に大きな影響を与える可能性があると感じました。これからも教室の現場から、AI活用のリアルを発信していきたいと改めて思いました。
――教育現場でのAI活用については、たびたび議論にはなるものの、実際に子どもたちがどのような姿勢で取り組んでいるのかは、多くの人が知らないようです。
実際にChatGPTを取り入れて強く感じるのは、生成AIの便利さを理解した上で、「それでもやっぱり自分で考えることを大事にしたい」と話す子が多いということです。なので、メディアでは「夏休みの宿題を自分でやらなくなる」といった報道をされることが多いのですが、子どもはそんなに愚かじゃありません。「AIは便利だからガンガン使っちゃおう」というより、「気を付けて使わなきゃいけない技術」だということを感じ取っているのです。
今後、当たり前にAIが自分の目の前に置かれたときに、「使ってはいけないものだ」というイメージは持ってほしくないと思っています。「上手に使えるようになってほしい」との思いを持ちながら、授業での活用を模索しています。ただし、活用上の注意点も多いので、慎重に実践していきたいとも考えています。
――ChatGPTを取り入れた授業について、県の指導主事を対象とした研修で講師をされたそうですね。どのような反応でしたか。
私が30分ほど話をした後、指導主事の方々が小グループに分かれて話し合いをして、そこで出た質問に私が答えるという内容でしたが、グループでの話し合いがとても盛り上がっていました。質問もいくつか受けたのですが、生成AIに対してポジティブなものが多かったですね。「自分がもし現場に戻ったらどう使うだろうか」という話を多くの先生がされていました。
――生成AIの活用に対して、保護者の反応はいかがでしたか。
昨年度、小学3年生でChatGPTを取り入れた授業をした際、学級通信でその様子を伝えたところ、保護者の方から「AIって怖いこともあるとは思うけど、それが当たり前になっていく時代で『どう使うか』を子どもたちに考えさせる授業は大事だと思った」といった内容のお手紙をいただきました。
――綿密に授業準備をされて、研修講師も依頼されてと、多忙そうですね。
そうですね。でも、初任者の頃とは授業の組み立て方が変わってきていて、単元ごとに丸ごと授業を考えて準備するようになっています。授業自体は子どもたちと一緒に進めて、子どもたちが主体的に動けるような授業設計にしているので、以前よりは時間的なゆとりができたと感じています。
――ITについては大学で深く学ばれたのでしょうか。
特に大学で学んだわけではなく、単純にパソコンやプログラミングに興味があって、趣味の延長線上でやっていただけでした。それが最近は仕事に生かせるようになってきたという感じでしょうか。
大学4年生の時、山形県の教員採用試験を「高校生物」で受験したのですが落ちてしまって、再挑戦しようと思って1年間、非常勤講師をしていた時期がありました。その時、時間的に余裕があったので、プログラミングを勉強し始めたんです。
当初は翌年、「高校生物」で再受験するつもりだったんですが、募集要項が出たら山形県では「高校生物」の採用がありませんでした。でも、山形県で教員をしたいとの思いが強かったので、小学校で受けることにしました。そうして合格し、今に至るという感じです。
――大学では小学校の教員免許も取られたんですね。
東京学芸大学の初等教育課程にいて、入学時はどの校種の教員になるか決めていなかったので、免許は全校種取ることにしました。
教育実習も全部で3回しています。学芸大学の附属小学校で実習をした際は、沼田晶弘先生が在籍されていて、自分が受けてきた小学校の授業とは異なる授業実践に衝撃を受けました。
――沼田先生については、「先を生きる」で2018年に弊紙でも、「OK Googleのその先へ AI時代に負けない学校教育」と題したインタビュー記事を掲載しました。その他に、影響を受けた先生はいますか。
公立小学校の教育実習では、指導教員の先生が本当によくしてくださいました。まだ学生だった私のことも子どもたちのこともリスペクトしてくださる方で、そのマインドが今も自分の中で生きています。「子どもに教えてやろう」ではなく、「子どもだからできることがある」「自分にはないものが子どもにはある」という考えを常に頭に置きながら、働いています。
また、坂本良晶先生と正頭英和先生のオンラインコミュニティーに所属しています。そこで一番ホットな話題はやはりAIで、授業や校務でどう使うかについて情報交換をしています。このオンラインコミュニティーに入ったことで学校外とのつながりが広がっていて、算数の指導を一生懸命研究している先生やICTの活用に取り組んでいる先生と情報交換するなどしています。そうした交流を通じて自分の実践を客観的に見られるようになり、自分の甘さや強みが分かるようになってきました。
――坂本先生についても「先を生きる」で以前、「さる先生からの挑戦状」と題したインタビュー記事を掲載しました。正頭先生についてもたびたび報じています。
正頭先生からも、刺激をたくさん受けています。引き出しが非常に多い先生で、ご自身の実践にはいつも根拠があって、「ただなんとなくやっている」ようなことがなく、明確な信念を持って実践しているように感じています。
学校外とのつながりを持ち、そこからの刺激を受けることについて、「多忙でそんな余裕はない」と言う先生もいると思います。でも、私自身はそうした交流が余裕につながっているように感じています。
自分がやっていることを他の人に見てもらうことで、評価や批判が受けられ、自分の実践にどんな意味があるのかを見つめ直すことができます。それが結果的に、自信を持って授業に臨むという精神的な余裕につながっていると思うんです。
【プロフィール】
近野洋平(こんの・ようへい) 山形県高畠町立和田小学校教諭。1994年、山形県生まれ。東京学芸大学卒業。AI・ICT活用や理科教育を軸に実践を積み重ねる。共著に『ベストな展開が選べる! 小学校理科「フローチャート型」授業ガイド』(東洋館出版社)。