「Nature of Science」を探究で 中高の理科教員らが議論

 「Nature of Science」を探究で 中高の理科教員らが議論
学習指導要領における探究学習の意義を話し合う登壇者ら
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 科学教育の発展や人材育成に取り組む中谷医工計測技術振興財団は10月17日、学習指導要領でうたわれている探究的な学びをテーマにしたセミナーを開き、中学校や高校の理科の教員らが、探究的な学びによってもたらされた変化や求められる教員の資質・能力についてパネルディスカッションで意見を交わした。パネルディスカッションのコーディネーターを務めた愛媛大学の向平和教授は「Nature of Science(科学の本質)」の考えを大事にし、教員の働き方改革が進む中で、科学を楽しむ文化まで削らないようにしなければいけないと警鐘を鳴らした。

 同財団では全国の小、中、高校などに科学教育振興を目的にした助成を行い、子どもたちの研究活動を支援している。その一環で開かれたこの日のパネルディスカッションでは、中学校や高校で理科を担当している教員らが登壇し、学習指導要領の全面実施後、探究的な学びが生徒や教員をどのように変容させたのかをテーマにした議論が行われた。

 スーパーサイエンスハイスクール(SSH)に指定されている兵庫県立神戸高校の繁戸克彦教諭は、高校での探究学習について「与えられた課題ではなく、課題を発見して解決していく探究を求められているが、高校の場合は教科の授業の中で自分で課題を見つけて探究していくのは難しい。どうしても『総合的な探究の時間』や、理数科であれば新教科の『理数探究』になるのかなと思う。本校の場合は長くSSHとして『課題研究』をやっており、そのノウハウを蓄積しながら進めているが、自分で課題を発見するのは非常に難しく、今も苦労している」と、高校現場の試行錯誤を報告。

 一方で「教員が提供したテーマで探究や研究活動をする場合や、大学の教員から指導を受けながら探究活動を研究する場合に比べて、自分たちでテーマを決めて探究をやるようになってから、生徒が非常に主体的に動く、楽しんでいる形に変化してきたと感じている」と紹介し、生徒が課題を見つけて探究を深めていく意義を実感を込めて語った。

 三田国際学園中学校・高校の大野智久教諭は、求められる教員の資質・能力に話題が及ぶと「決定的にフィードバックスキルが重要だと思っている。アクションではなく、リアクションが大事になる。アクションは教員が準備できるものだが、リアクションは準備ができない。その場での生徒のアクションにこちらがリアクションをしていく。学習者が主役になると、教員がやることもリアクションが中心になってくる。そのリアクションのときにフィードバックがある。生徒がやったことにどんなリアクションができるかということが、実は教員の資質・能力として極めて重要なのではないか」と問い掛けた。

 その上で、自身が意識しているテクニックとして、WhyとHowの質問を生徒の状況に応じて使い分けていることを紹介。「Whyは帰納的な、本質的なものに迫る問いで、さまつなことにとらわれて目的を見失っている生徒にはWhy、例えば『なぜそれをやるの?』と抽象化をしてあげる。逆にふんわりしたことばかりをやっている生徒に対してはHowで『具体的にどうやってやるの?』と聞く。このWhyとHowの2つの問いは使い勝手がいい」と話した。

 東京都世田谷区立千歳中学校の青木久美子主任教諭は、GIGAスクール構想で1人1台端末が入り、学習支援アプリを使って生徒同士が意見を共有する場面が増えたことを挙げ、「評価を教員だけがするのではなく、子ども同士で共有しながら評価することができるようになった。今までは教員が評価をしていたが、子どもの中でも評価できる。子どもは教員から評価されるのもうれしいが、仲間で評価し合い、アドバイスをもらえるのが、今の子どもたちには必要だ。それが探究の考え方の中で実現できるのではないか」と強調した。

 一連の議論を振り返った向教授は「理科教育学の中で、『Nature of Science』という言葉がよく取り上げられる。科学の本質という意味だが、要するに科学を楽しむことや、科学にどういう意味があるのか、そして文化としてどう根付くかということが問われている。子どもや教員が楽しみながら学ぶ本質を考えていくのが重要だ。その点で、働き方改革が進む中で気を付けなければいけないのは、そういう必要なものまで削ってしまうこともあり得るということだ。そういう視点も持っていきたい」と指摘した。

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