教育におけるデータ利活用の研究を進めている埼玉県戸田市教育委員会は10月18日、市教委の施策を外部の有識者が評価する「教育政策アドバイザリーボード」の第5回をオンラインで開き、教員の声掛けや発問が児童生徒の学びにどんな影響を与えているかを検証する研究などの取り組みについて報告した。構成員からは、得られたデータを教員が適切に分析するためのリテラシーを育成する必要性が指摘された。
優れた教員の指導技術を可視化、定量化することを目的に、同市では2021年度から、児童生徒が対面で話し合う場面を録音し、教員のどんな声掛けや発問が児童生徒の会話を活発にするかを分析している。
この教員による声掛けや発問の実証研究について、経済学や機械学習が専門の成田悠輔イエール大学助教授は「例えば『児童生徒の発話量が多いほど、学力や非認知スキルにいい影響があるのではないか』『その間に相関があるのではないか』というのは、見せかけである可能性もある。つまり、発話が学力に影響を与えているかもしれないが、逆に学力が高い子どもほど発話がうまくいっている可能性もある」と指摘。
「ちゃんと発話の影響を測るためには、早い段階で教師の発話の仕方を変えてみるといった実験的な介入のようなものを導入して、本当に発話が何をつくり出しているのか、あるいはつくり出していないのかという因果関係を調べることも同時に進めると、さらに面白いプロジェクトになる」と提案した。
また、教育経済学者の中室牧子慶應義塾大学教授は「データ分析や統計分析について専門教育を受けている教員はほとんどいないと思う。ここへきて急に、データ分析が仕事の中に無理やり組み込まれたところがあり、見よう見まねや独学でやっている教員も多いのではないか。(成田助教授が指摘するように)相関関係と因果関係を勘違いすると誤った実践に結び付きかねない」と警鐘を鳴らした。
構成員からの意見に耳を傾けていた戸ヶ﨑勤教育長は「(データ利活用は)学校現場が有用性を感じ、積極的に使っていくかということ抜きには語れない。指導をはじめさまざまな面で教員がデータを生かせるように、データリテラシーの育成を一層進めていかなければいけない」と、データ利活用や統計の基礎知識について、教員が学べる機会を充実させていく考えを示した。