「日本一学びあう学校」を学校目標にしている学校がある。高知市立南海中学校だ。
創立76年の伝統ある学校であるが、過疎化によりピーク時には1000人以上いた生徒は、今は200人程度。全学年2学級で特別支援学級を入れても、9学級の小さな学校である。地方の過疎化に加えて、いつ来るか分からない南海トラフ地震のため、地域人口がどんどん減っていると言う。
学校にうかがった時、まず目を引いたのは学校目標であった。「日本一学びあう学校」。確かにそう書いてある。
この学校の学校目標は、昨年度まで「志を高く持ち、自他を尊び、なかまとともに歩む生徒の育成」であった。廣瀬啓二校長によると、「素晴らしい目標であったのですが、誰もが覚えやすく口に出しやすいものにしたかったため変えました。しかし、昨年度までの考えは学校経営の基盤として受け継いでいます」とのことだった。
何十年も学校目標であったから、私たちの代で変えることはできないという発想ではない。今の子供たち、職員、地域の人たちのために何がいいのか常に模索している。そういう姿勢が校長の思いだけでなく、教員たちの授業にも表れていた。
今回私は「業務改善委員会」の話し合いに呼ばれたもので、授業を見に行ったのではない。しかし、学校に着くと、すぐ授業を見せてもらった。
どの授業も学び合いをしている。そして1人1台端末も有効に活用されている。特に素晴らしい使い方だと思ったことが、狙いと振り返りの明確化である。授業前に目当てを立て、授業後の振り返りをグーグルフォームなどで毎回積み重ねている。こういうことが生徒の学力向上と、学校全体の落ち着きのある雰囲気につながっているのだと思った。
南海中学校は講師を招き、他校の参観教員とともに学ぶ公開授業を年3回、自校の教員のみの校内研究授業を年3回、計6回授業公開を行っている。中心にお話させていただいた鈴木達也教諭は中四国大会での公開授業も行っている。また、定期テストをやめ、各教科年10回程度の単元テストにし、かつ年4~5回の学力診断テストまで取り組んでいる。
どう考えても働き方改革と逆行している。テストは増やし、公開授業も多い。しかし、教員たちにアンケートの形でとっているストレスチェックは、年々低下傾向(ストレスが少ない)にある。これはなぜだろうか。
南海中学校は、授業改善を最優先事項として取り組んでいる。それ以外のことは、どんどんやりやすいように変えていこうとされている。その結果、生徒が落ち着いて学校生活を送れており、さらに教員の意欲ややりがいを高めることで教員のストレス軽減につながっているそうだ。
一例を挙げる。修学旅行にはスマートフォンを持っていって良い。学校生活の主体は生徒であることに鑑み、教員から一方的にルールを押し付けるのではなく修学旅行実行委員の生徒を中心に修学旅行に参加する生徒の要望を踏まえ、思い出に残す写真撮影および緊急時の連絡以外にはスマートフォンを用いないというルールを生徒が設定し、教員との検討の上で実現している(宿舎やバスの移動時には教員が預かるという)。
生徒指導に関して指導の優先順位が明確にされている。端的に言えば、「個人の責任である指導(頭髪や服装、持ち物の指導)」よりも、「人権や命(他人の学習権を奪う行為や暴言・暴力の指導)、授業で学びあうことの指導」を重視している。
つまり、服装違反や校内でスマホをつついている姿を目にした際は、「〇〇しようか~」などと適切な行動を促す声掛けはするが、きつく責めることは絶対にしない。その代わり、授業で他の生徒の発言をばかにしたり、私語をしていたりしたら、授業を止めてでも指導を行っている。このことが、授業とそれ以外の時間にメリハリをつけることにつながり、教員と生徒の関係性を良好に保つことにつながっているそうだ。また、厳しく生徒指導するエネルギーとそれに費やす時間が減少することが何よりの業務改善になっているという。
休み時間のタブレット端末の使用に関しても、自由だ。私がうかがった時は「スイカゲーム」というのがはやっていた。もちろん、外で遊んでいる生徒もタブレット端末を使っていない生徒もいる。授業中は余計なことをせず集中している姿も素晴らしい。
授業は「日本一学びあう学校」と掲げているだけあって、通常の席の形が班の形になっている。前を向いておらず、一斉授業は最初と最後だけ。後はホワイトボードやタブレット端末を使って学び合っている。
校長室の前には大きなテレビがあり、そこに授業の様子が映し出されている。校長が授業をビデオで撮り、編集して流すそうだ。校長室の前には、いつも生徒がおり、他学年の授業や活動を見てコメントし合っている。
日本一になることは難しい。ただ、目指すことはどの学校でもできる。そもそも日本一学びあう学校になっているかどうかは、比較することができない。ここがとても大切である。順位を決めることができないからこそ、自分たちが「私たちは日本一学びあう学校だ」と言えば、日本一なのである。
大事なことは、本当に日本一かどうかではなく、教職員と生徒みんなが本気で「日本一」を目指したかである。もし仮に、全員が「日本一」を目指したのであれば、それだけで「日本一学びあう学校」だと思う。
ビジョンを大きく掲げることはとても大切だ。そして、学校長自ら率先して汗をかき、やりたいことをまず挑戦させてあげる風土が、南海中学校のような「日本一学びあう学校」を作っているのだと思う。
ご自身の学校はどうだろうか。ご自身の学校目標を今言えるだろうか。言えないのであれば、伝統ある学校目標を学校長とともに現代風に書き換えることから始めることも検討してみてはいかがだろうか。
良い雰囲気に包まれている学校は、「まずやってみる」という姿勢が常にある。変化を恐れず、挑戦できる風土がある。「そうしたいけれど、うちの学校ではできません。職員が―、校長が―」という話を聞く。本当にそうだろうか。できることはやったのだろうか。傷つくことを恐れずに行動できていないことはないだろうか。私自身も自問自答しながら、より良い教育が行える環境を作っていきたい。