いじめ加害者の受験生は入試で「減点」、政府が大学に求める 韓国

いじめ加害者の受験生は入試で「減点」、政府が大学に求める 韓国
【協賛企画】
広 告

いじめ被害学生の54%が自殺を考えた

 「いじめ」や「校内暴力」は世界共通の問題である。本連載の第1回で取り上げたのは、フランスの学校での校内暴力問題であった。フランスでは当時、校内暴力に対して教育的な配慮を優先するよりも、校内暴力は明らかに犯罪であるとして、処罰を求める法改正を巡って議論が行われていた。韓国も同様に校内暴力が深刻な社会問題となっており、韓国政府は対処に苦慮している。

 今年の春、Netflixが『The Glory』と題するシリーズを放映した。同級生から校内暴力を受け、中退に追い込まれた高校の女生徒が、やがて小学校の教員になり、いじめに加担した元同級生一人ずつに復讐するという物語である。韓国の視聴者は、その残酷ともいえる復讐劇に喝采し、校内暴力を行った生徒への罰則強化を支持するようになっている。『Korea Times』(3月7日、「Why is school bullying worsening in Korea despite prevention steps?」)は、「同シリーズで描かれたサデスティックな暴力は、2006年に起こった実話である」と書いている。

 『ハンギョレ新聞』は、3月に韓国青少年学会の学会誌に掲載された校内暴力の影響に関する調査報告を紹介している(3月5日、「校内暴力を経験した大学生の半数以上が極端な選択を考えたことがある」)。大学生1030人を対象に行われた調査では、34.3%が校内暴力にあったと答えている。さらに衝撃的だったのは、校内暴力に遭った学生の54.4%が自殺を考えたことがあると答えていることだ。

 ただ、同調査では「加害者が厳しく罰せられれば問題は解決すると考えるのは、校内暴力を防ぐ良い処方箋ではない」という専門家の発言を紹介している。さらに「加害者と被害者を分離し、被害者を保護する声が高まり、教育当局も対策の準備を始めた」と書いている。

 韓国では04年に「学校暴力予防法」が制定されている。同法に基づいて学校で校内暴力を監視する委員会が設置されるようになった。それ以降、校内暴力の件数は減ったと言われている。校内暴力監視委員会に報告された校内暴力の件数は、2020年より前は2万件から3万件であったが、21年は1万5600件に減少、22年1学期は9800件であった。

「学校暴力予防法」制定にもかかわらず、減らぬ校内暴力

 だが前述の『Korea Times』は「校内暴力は依然としてはびこっている」と指摘している。さらに「校内暴力の被害者は、校内暴力監視委員会は信用できないと語っている」と、問題はむしろ隠蔽(いんぺい)され、深刻化していると指摘している。その理由として、同紙は「委員会の委員は法的な専門家ではない。委員の半分以上は生徒の親である」と指摘している。

 校内暴力が認められた場合の対処として、「被害者との接触禁止」(79%)、「書面による謝罪」(63%)、「ボランティアによる働き掛け」(49%)、「加害者の教室からの排除」(15%)、「他の学校への転校」(5%)、「他のクラスへの移動」(4%)があり、こうした措置のいくつかが組み合わされて実行されている。

 同時に校内暴力を巡る訴訟も急速に増えている。訴訟は、被害者の親によるものが多いが、加害者の親が起こした不服申し立ての件数も増えている。これは校内暴力を行ったと認定されると、「内申書」に校内暴力の事実が記載され、入試に際して不利益になるからだ。

 こうした動きに対して、『聯合ニュース』は、憲法裁判所が「学校暴力予防法」は合憲であるとの判断を下したと報じている(2月28日、「裁判所は学校のいじめっ子の被害者への謝罪を義務付ける法律の合憲性を支持」)。同記事は「裁判所は学校暴力予防法が学校でのいじめの被害者に謝罪を強要することで、良心の自由と人権を侵害していると主張する中学生の申し立てを6対3で却下した」と伝えている。さらに「9人の最高裁判事は、加害者に書面で謝罪を義務付けるのは、自分の過ちを振り返り、被害者に謝罪する教育的な機会を提供することを目的としていると述べた」ことも説明している。

政府は大学に大学入試選考過程で校内暴力の事実を考慮するよう要請

 政府は校内暴力に対してさらに厳しい処罰を検討している(『Korea Times』4月12日、「Gov’t unveils stricter measures against school bullying」)。政府が検討しているのは、内申書に校内暴力を行ったと記載された生徒は大学入試でペナルティーが科せられる(すなわち大学は選考過程で校内暴力が記載されている生徒の点数を引き下げる)一方、校内暴力の記録を削除するためには、被害者の「同意書」が必要という内容である。

 従来の大学は試験の成績や高校の成績を重視してきたが、政府は大学に「内申書」を重視するよう要請するとしている。また「校内暴力」の記録は加害生徒が卒業後4年間は保存されることになる。従来、加害生徒が卒業すると校内暴力の記録は削除されていた。

 この問題は常に「教育」と「処罰」という両面を考慮する必要がある。言葉は大事である。問題を「いじめ(bullying)」と見るのか、「校内暴力(school violence)」と見るのかで、評価や対応が変わってくる。「どう処罰するか」という問題は別にして、「いじめ」という呼び方は止め、明確に「暴力」という言葉を使うべきではないか。

 社会では許されない行為が、学校で許されて良いわけはない。この問題は子供同士の無邪気な「じゃれ合い」ではない。韓国青少年学会の調査にあるように、被害者は自殺を考えるほど苦しんでいる現実を、明確に認識する必要があるのではないか。

広 告
広 告