学校の働き方改革の一つとして、全ての学校に標準授業時数を大きく上回る教育課程編成の点検と見直しを求めた今年8月の中教審の緊急提言に対し、市区町村教育委員会の14.4%が点検に取り組んでいないことが12月27日、文部科学省が全国の教委に行った学校の働き方改革を巡る調査で明らかになった。学校行事の精選・重点化についても、市区町村教委の7.0%が取り組んでいなかった。また、学校の働き方改革で特に優先的に取り組む項目を聞いたところ、都道府県、政令市、市区町村の教委のいずれもが「部活動」を最上位に挙げた。
この調査は、学校の働き方改革を促進するため、文科省が年1回行っているもので、全国の教委から取り組みの実施状況を聞き取り、好事例の横展開などを図っている。正式名称は「教育委員会における学校の働き方改革のための取組状況調査」。今年は中教審の「質の高い教師の確保」特別部会が8月28日に、「できることを直ちに行う」(部会長の貞廣斎子・千葉大教育学部教授)として緊急提言を行ったことを受け、その実施状況を10月1日時点で全国全ての教委など計1795機関を対象に調べた。
調査結果によると、各教委に中教審の緊急提言を受けて業務の「3分類」の中で特に優先的に取り組む項目を複数回答で聞いたところ、都道府県、政令市、市区町村ともに「部活動」が最上位となった。4月に文科省が公表した教員勤務実態調査(速報値)によると、中学校教員の長期休業期を含めた1月当たりの推計時間外在校等時間は上限指針の「45時間以下」を大幅に超える約58時間となっており、部活動に関連する教員の負担軽減を全国の教委が最も重視している状況が確認された。このほか、3割を超える回答率になった項目には「調査・統計等への回答」「学習評価や成績処理」「学校徴収金の徴収・管理」「支援が必要な児童生徒・家庭への対応」が挙がった。
中教審の緊急提言では、学校教育法施行規則が定める標準授業時数を大きく上回る1086時間以上の教育課程を編成している小中学校が3校に1校以上の割合で存在している実態を重視し、全ての学校に計画の点検と年度途中を含めた見直しを要請。これを受け、文科省は9月8日付で全国の教委に授業時数の点検と適切な指導・助言を学校現場に行うことを求める通知を行った。だが、今回の調査で授業時数の点検を行ったかどうかを各教委に聞いたところ、都道府県と政令市では全ての教委が「既に実施している」あるいは「検討中」と答えたものの、市区町村では14.4%が「特に取り組んでいない」「取り組む予定はない」と回答した。
また、学校行事についても、中教審の緊急提言では精選・重点化を求め、運動会の開会式の簡素化や全体行進の省略で練習時間を減らしたり、入学式や卒業式での慣例的・形式的な要素を見直して式典時間の短縮をしたりする取組例を挙げた。これについても、今回の調査で実施状況を聞いたところ、市区町村の7.0%が「特に取り組んでいない」「取り組む予定はない」と答えた。
中教審が2019年1月の働き方改革答申で示した「学校・教師が担う業務に係る3分類」とそれに基づく14項目の進展状況については、「支援が必要な児童生徒・家庭への対応」について、スクールカウンセラー(SC)やスクールソーシャルワーカー(SSW)など専門スタッフとの連携や協力を図っていると回答した教委が97.5%を占めたほか、「授業準備に支援スタッフの参画を図る」(74.9%)、「登下校に学校以外の主体が中心に対応する」(66.1%)、「学校徴収金の徴収・管理を教師が関与しない方法で行う」(45.3%)といった項目で、前年の調査よりも5%以上増えた。
一方、調査結果から教委の実施率が低い項目をみると、「児童生徒の休み時間における対応に地域人材などの協力を得る」(5.9%)、「進路指導で、就職先の情報収集などに事務職員や支援スタッフの参画を進める」(12.8%)、「校内清掃に地域人材の協力や民間委託などを行う」(18.2%)など、学校外との連携が進まない現状もうかがえる。
また、文科省によると、中教審の緊急提言が懸念した「地方自治体・学校間の取り組み状況に差がある」という状況も解消されていない。
学校の働き方改革を巡っては、財務省が4月28日の財政制度等審議会財政制度分科会で「教員が担う必要のない業務については、文科省・教委が強制的にでも教員の業務としない整理をするなど、踏み込んだ業務の適正化を行うべき」などと指摘し、外部人材の活用を加速させるよう促した。これに対して、永岡桂子前文科相は5月9日の閣議後会見で、働き方改革に一定の改善があるとしつつ、「学校以外の主体の協力を得る取り組みには課題がある」として家庭や地域住民などとの連携が課題になっているとの認識を示している。
中教審の緊急提言は、そうした状況も踏まえて出されたものだが、今回の調査結果からは、外部との連携を中心に学校の働き方改革が十分に進んでいない現状が改めて浮かび上がる形になったとも言えそうだ。