文部科学省は12月27日、学校のDX(デジタルトランスフォーメーション)やペーパーレス化の取り組み状況について、公立小中学校や教育委員会が自己点検した結果を取りまとめて公表した。児童や保護者への連絡、校内の情報共有などのデジタル化の進展状況には、項目や学校により大きな差があることが分かったほか、およそ9割の学校でファクスや押印の慣行が残っていることが明らかになった。今回の結果を受け、同省は2024年度から3年程度を集中取り組み期間と位置付け、学校現場の支援を強化する。
文科省は23年9月から11月にかけて、全国の公立小中学校や教育委員会に対し、同省のWEB調査システム「EduSurvey」を通して、望ましい取り組み項目のチェックリストを用いた自己点検を依頼。小中学校からは2万6364件(回収率90.9%)、教委からは1690件(同93.3%)の回答を得た。
チェックリスト36項目のうち、取り組んでいる学校の割合が高かったのは「職位に応じた教育データの閲覧」(80.6%)、「教員への校務用個人メールアドレス付与」(78.1%)、「学校徴収金の徴収に口座振替・インターネットバンキングなどの活用」(半分以上デジタル化:72.4%)、「職員間の情報共有や連絡でのクラウドサービスの導入」(72.0%)――など。
一方、割合が低かったのは「学校説明会や保護者面談のオンライン化」(半分以上オンライン化:5.0%)、「定期テストへのCBT導入」(8.6%)、「職員会議のハイブリッド(対面・オンライン)実施」(半分以上ハイブリッド化:3.9%)、「校務での生成AIの活用」(半分以上の教職員が活用している割合:1.2%)――などだった。
ペーパーレス化については、95.5%の学校が「学校から教職員に紙で提出を求めている書類がある」と回答。各種手当に関する書類や給与支払い口座登録書類、休暇や在宅勤務などの申請書類を紙で提出させているケースがあった。
また、95.9%の学校でファクスが使われており、主な送付先は「民間事業者」(70%)、「教育委員会」(58%)、「給食センター」(32%)などだった。また、保護者・外部とのやりとりで押印・署名が必要な書類があると回答した学校は87.2%に上り、その種類は通知表や同意書、調査票など多岐に渡った。
保護者とのやりとりについては、欠席・遅刻・早退連絡や調査などを半分以上デジタル化している学校は5割を超えていたが、一方で保護者からの書類提出や日程調整などに半分以上クラウドサービスを使っている割合は、1割以下にとどまった。
教育委員会では、「学校や教職員からのフィルタリングに関する要望を柔軟に反映する仕組みの整備」(86.0%)、「統合型校務支援システムを導入」(79.9%)「教職員に外部ともやりとり可能な校務用の個人メールアドレスを付与」(66.7%)などが高く、「クラウド環境を校外で使用した際の適切な勤怠管理・勤務時間管理の仕組みの整備」(6.7%)、「教育委員会主催の研修のハイブリッド化」(半分以上ハイブリッド化:15.5%)などが低かった。
文科省によれば、今回の調査ではチェック項目による差だけでなく、学校・自治体間の差も大きかった。加えて、同省が一部の学校にヒアリングを行ったところ、表面的にはデジタルを活用していても、その活用が徹底されていないため非効率な状況を生み出している事例が散見されたという。
その中には「アプリを用いて生徒の欠席連絡を受け付けているが、アプリが導入されているのは職員室で用いている校務用PCであり、放課後、手書きで記入した出欠情報を基に改めて校務支援システムへの転記を行っている」「指導要録を校務支援システムで作成後、紙で打ち出し、学校印を押印し保管している」「市教委から名簿情報が紙で提供され、学校側で校務支援システムに手入力している」「教職員のメールアドレスは付与されているが、実際に使えるような設定・運用になっていない」――といったケースがあった。
こうした実態について、同省学校デジタル化プロジェクトチーム(PT)の担当者は「GIGAスクール構想でクラウド環境が整備されてからまだ2年半で、コロナ禍で余裕のない時期もあった」としながらも、「学校を若者にとって魅力ある職場、デジタル時代にふさわしい場所にアップデートしていくことも重要。スピード感を持って改善していきたい」と語った。
そのため、同省は来年度から3年間を集中取り組み期間として▽手軽な改善方法を具体的に示した資料の提供▽オンライン・オンデマンドでの学習機会の提供▽全額国費によるアドバイザー派遣――などの支援を重点的に行うとした。
また、政府のデジタル行財政改革会議で25年までに学校現場のファクス・押印を原則廃止する目標が示されたことを踏まえ、「整備面の課題に加え、相手があることから、個別学校だけでは実現が難しい場合もありえる。国としても教委、教育関連団体、民間事業者などに慣行の見直しを丁寧に働き掛ける」とした。
同PTの担当者は「デジタル化が進んでいる学校では、残業が減るだけでなく、勤務時間内の働き方が変わり、子供たちに成果を還元できるようになった、意思決定が格段に速くなったといった事例がある。追加の有償ソフトなどを使わなくても、GIGAスクールの標準的な環境の中で改善できることはたくさんある」と強調した。