学校監査で小学校長が自殺、監督官に欠けた敬意と思いやり 英国

学校監査で小学校長が自殺、監督官に欠けた敬意と思いやり 英国
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学校への監査

 教員が厳しく管理されているのは日本に限らない。英国の場合、「Ofsted(オフステッド)」という制度がある。The Office for Standards in Education, Children’s Services and Skillsの頭文字を取ったもので、学校の監査機関である。

 Ofstedは準政府機関で、教員の指導や教育の質、教育内容が基準に達しているか、生徒の学習態度や学習成果、さらにトイレなどの施設まで調べて、学校評価を行っている。監査結果は公表されている。目的は教育の質が保たれているかを監査することである。

自殺事件を引き起こした監査の問題点

 このOfstedが英国で問題になっている。Ofstedの監査後、監査対象になった小学校のルース・ペリー校長が自殺する事件が起こった。この自殺を英国のメディアは大きく取り上げて報道している。『The Guardian』は2023年11月28日付の記事「Ruth Perry ‘extremely distressed and upset’ after Ofsted visit, inquest hears」で、自殺の原因はOfstedの監査方法にあると伝えている。BBCも同12月7日の記事「Ruth Perry: Ofsted inspection ‘contributed’ to head teacher’s death」で、同様の内容の記事を掲載。さらに1月2日の記事「Ruth Perry death: Ofsted needs more empathy, says boss」で、Ofstedの監査が厳し過ぎると問題点を指摘している。

 この小学校校長に何が起こったのだろうか。報道によると、ペリー校長は敵対的なOfstedの監査で自分のキャリアが破壊されると心理的に追い詰められていた。校長の夫は、監査の最初の日、彼女は元気に学校に行ったが、Ofstedの監督官に会った後、ひどく落ち込んでいたと話している。Ofstedの評価で、ペリー校長の小学校は「優れている」から「不十分だ」に格下げされた。夫によると、彼女は監督官に最初に会ったとき、「生きた心地がしなかった」と語っていた。監督官は最初から決め付けた態度であったという。監査で評価が下がれば、「自分のキャリアは終わり、自分は破壊される」と彼女はおびえていた。格下げになれば、校長を含む管理職が交代させられる可能性があった。

 校長の同僚は「彼女は息つく暇もなく、質問を浴びせられ、考える間もなく、質問は次に移った。彼女はおびえ切っていた」と、監査の状況を語っている。ペリー校長は13年のキャリアを持っていた。同僚たちは、彼女は能力があり、共感性も持った優れた校長であったと述べている。過去30年間、精神的な問題はなかった。だが、最初の日の2時間の監査の後、彼女は完全に壊れてしまった。2日目の監査では、下を向いたままだった。そして彼女が恐れていた監査結果が伝えられた。

 この事件後、Ofstedの監査方法を巡って議論が起こった。BBCは「Ofstedは批判に耳を傾けるべきである」と、Ofstedに対して厳しい指摘をしている。検視官はOfstedの監査がペリー校長の死の原因であるという調査結果を発表。「監督官は公平性と敬意、思いやりに欠け、乱暴で、威圧的であった」と語っている。

 こうした事態を受け、教員組合はOfstedの監査を即座に一時中止すべきだと要請した(BBCの昨年12月7日の記事「Unions call for immediate pause to Ofsted inspection」)。2つの教員組合は共同声明を発表し、「意味のある対策を講じる時である」と、Ofstedの監査方法の見直しを求めている。Ofstedの責任者は、監査官がペリー校長にストレスを与えたことを謝罪した。そして予定されている監査を延期すると発表した。これに対して組合は、そうしたOfstedの対応は不十分だと批判している。

 日本でも「学校評価」は行われており、大学での学校評価を現場で経験して、そのいい加減さに驚いたことがある。教員と職員を動員して膨大な量の資料を準備する。だが、評価は“書類審査”だけで、評価の担当者は授業の見学すら来なかった。果たして、こうしたやり方で学校評価ができるのか疑問に思った。英国の事件は遠い国で起こったことだが、改めて「学校評価」は何かを考える機会を与えているように思える。

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