幼児教育の教育課程の議論を開始、幼小接続を評価 文科省検討会

幼児教育の教育課程の議論を開始、幼小接続を評価 文科省検討会
幼児教育の指針を話し合う文科省の有識者検討会=オンラインで取材
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 幼児教育の指針となる幼稚園教育要領の改訂に向け、文部科学省は1月25日、有識者検討会の初会合を開き、幼児教育の教育課程や指導、評価などを巡る議論に着手した。委員による自由な意見交換が行われ、幼稚園や保育所など幼児教育の現場関係者からは幼児教育と小学校教育の接続を重視した現行の幼稚園教育要領が実施されたことで「幼小接続の意識がすごく変化した」と評価する声が出た一方、地域や園による取り組みの差が出ていることを懸念する意見もあった。有識者からは「小学校以降の探究学習は幼児期の学びが基本にある。幼小のつながりをもっと『見える化』すべきだ」との指摘が出た。

 2017年に改訂された現行の幼稚園教育要領では、「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」として、健康な心と体、自立心、社会生活との関わり、思考力の芽生え、自然との関わり・生命尊重など10項目を明確化し、これを幼児教育と小学校教育の関係者が共有することで幼保小の接続を進める道筋を描いている。また、活動の主体は幼児で、教師がその活動が生まれやすい環境を構成することが発達に必要な体験につながるとして、「幼児の主体性」と「教師の意図」をバランスよく絡ませていくことを求めている。

 この改訂を受けた幼児教育の変化について、高橋慶子委員(東京都目黒区立みどりがおかこども園長)は「幼保小接続の意識は現場ですごく変化している。研修などを通じてもっと学びたいが、多忙感があるので十分には進まない」と説明。岸野麻衣委員(福井大大学院教授)は「幼保小の連携に積極的な園が増えてきた分、地域や園による差も広がってきた。小学校ときちんとつないでいくことが、保育の質の改善、差の解消にもつながる」と指摘した。

 渡邉英則委員(横浜市都筑区の認定こども園ゆうゆうのもり幼保園長)は「幼稚園教育は小学校教育を変える原動力になることが分かり、光が見えた思いがしている。ただ、小学校は変わるのが大変。失敗してもいい、という子どもたちをどう育てていけるか。『教師の意図』でやると、それはできない」と、小学校教育が子どもの主体性をより重視する形に変わっていくことが必要だとの考えを述べた。

 これに対し、小学校の現場に立つ佐藤友信委員(東京都江東区立東陽小学校長)は「小学校では、子どもたちでできることに、教員が手を差し伸べてしまうことがある。環境を構成することによって、子どもが主体的に活動できるようにすることは、小学校がもっと幼児教育から学んでいく必要がある」と話した。

 探究学習などのカリキュラムに詳しい田村学委員(國學院大学教授)は生成AIによる学びの変化に触れ、「ChatGPTの普及により、体験活動や身体を通した学びの大切さがはっきり分かった。非認知の学びも含め、体験を通した学びをきちんと明示し、体系的に整理して、幼児教育から小中高の学びにつなげていくべきだ。また、幼小のつながりをもっと整理して『見える化』する必要がある。物事の本質を探って見定める探究的な学びは、幼児期の学びが基盤にあると考えていいのではないか」と指摘した。

 学習指導要領の議論に深く関わってきた奈須正裕委員(上智大学教授)は「幼児教育が発達保障の原理で生まれてきたのに対し、小学校教育は国民統合という概念で生まれてきた。そもそも教育の原理が違う。学制ができて150年になり、その根深い違いを埋めていかなければならない。子どもの自然認識の発達という道筋でカリキュラムを下から積み上げていく議論が必要だ。幼児教育から『こうした方が子どもはうまく育ちます』と小学校を突き上げてくれるような議論が大事だと思う」と、今後の改訂作業に向けた発想を語った。

 有識者検討会の正式名称は「今後の幼児教育の教育課程、指導、評価等の在り方に関する有識者検討会」。文科省は、議論を幼稚園教育要領の改訂に向けた大臣諮問に反映させる考え。大臣諮問は今年秋以降に見込まれており、有識者検討会の議論は今年夏前までに一定の取りまとめを行うという。

 国が告示する幼児教育の指針には、幼稚園を対象とする幼稚園教育要領のほか、保育所の保育指針、認定こども園の教育・保育要領があるが、幼稚園教育要領の内容は保育指針と教育・保育要領にも反映される。幼児教育の指針については、幼稚園を所管する文科省と、保育所や認定こども園を所管するこども家庭庁が協議して策定することがこども家庭庁設立時に法律で定められている。

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