今後の教員養成とそれを担う教員養成系大学・大学院の役割を考える日本教育大学協会のシンポジウムが2月15日、オンラインで行われた。講演した元文科副大臣の鈴木寛東京大学・慶應義塾大学教授は、教員養成系大学・大学院に各教育委員会のパートナーとして教育政策のシンクタンク機能を果たすよう求めるとともに、高度な専門性を持つ教員のニーズに応えるため「教員の原則修士化」を検討する必要を指摘した。これに対し、文部科学省の後藤教至・総合教育政策局教育人材政策課長は「教員の修士化は、本気で今必要なことだと考えている」と応じ、1人1台端末の環境下で新しい授業スタイルへの転換が求められていることに触れながら、「教員の免許制度にまつわる今の教職課程の仕組みを固定したものだとは考えていない。必要であれば法律の改正も考えていい時期に来ていると思う」と踏み込んだ。
シンポジウムは「今、教員養成に求められていることは何か」をテーマに、教員養成に携わる全国の大学・大学院や教育委員会などの関係者が参加した。鈴木氏が「教員養成系大学院・学部の役割と期待について」と題した講演を行った後、鈴木氏と後藤氏、佐々木幸寿・東京学芸大学副学長によるパネルディスカッションが行われた。
鈴木氏は講演の席上、教員養成系大学・大学院に期待される新しい役割として、「養成すべき『教員』の拡大」を挙げ、都道府県・政令市や市町村で教育行政を担う実務者や、民間企業などから教員として学校現場に入職する「新たな教員候補者」の養成を行う必要があるとした。同時に、都道府県・政令市や市町村の教育委員会のパートナーとして、教育政策の遂行に必要な現状把握と分析、情報提供、政策提言などを行うシンクタンクとしての役割を果たすことを求めた。
シンクタンク機能の具体的な内容として▽高校生段階での教員希望者を把握し、希望勤務地や志望理由などを調べる▽高校生段階での教員志望者が実際にどの地域、どの大学、どの学部に進学したのかを把握する▽大学入学後に民間企業やNPOを含め、教育系への入職を志望し始めた学生の把握▽教員志望者が2年生、3年生と進学する中での志望の変化を把握▽社会人の中で潜在的な教員希望者がどこにどのくらいいるかを把握する--ことなどを挙げた。鈴木氏は「いま教育委員会の担当者や学校管理職が一番悩んでいるテーマは、教員が集まらないこと。これからは潜在的な教員の掘り起こしが重要になる。そこに教員養成系大学院・学部ができることはたくさんある」と指摘した。
また、「教員の原則修士化」について、2009年に文科副大臣だった当時に中教審に諮問した経緯を説明。その上で教員の質の高度化につながるとして、エビデンスを集めて積極的に社会や政策当局に提言することを求めた。
続いて行われたパネルディスカッションで、文科省で教員政策を担う後藤氏は「学生の状況分析をもっと緻密にやれば、教員志望者の掘り起こしができるという指摘は納得感がすごくある」と評価。「教員の原則修士化」について、「これは本気で今必要なことだろうと考えている」と、はっきり語った。
その理由として、後藤氏は「学校現場が今抱えている課題は多様化しているし、高度化している。大きなインパクトだったのは、1人1台端末が整ったこと。1人1人の教員に自分の授業をもう1回組み立て直し、新しい授業スタイルに転換してもらわなければならないフェーズにある。これは結構難しい。その中で、教員養成の中で学びを大学院レベルにいざなっていくことは、当然やるべきだ」と説明。経済的支援として奨学金の整備を検討する考えも示した。
その上で、後藤氏は「今の免許制度であるとか、免許制度にまつわる教職課程の仕組みを、必ずしも固定したものだとは考えていない。必要であれば、法律を改正するというようなことも考えていい時期に来ているのではないかと思っている」と述べ、法改正を含めた制度の見直しも検討する可能性を示唆した。
教員養成系大学の当事者の立場で出席した佐々木氏は、これまで教員養成系大学・大学院が地域の政策形成に関わってこられなかった理由について、「教育学自体が実践の学問なので、自分たちの大学として教育政策にどう関わっていくべきかを意義付けていくプロセスが欠けていた」と率直に述べた。
教員養成の高度化について「教職大学院の置かれている状況も変化している。国立大学の場合には、修士課程が教職大学院に一本化されていく中で、今、たった2000人の定員しかない。100万人の教員がいる中で2000人の定員でどのように高度化していったらいいのかが、非常に大きな課題になっている」と実情を説明。「教職大学院は、スタート、全国化、それに続く第3ステージを迎えている。第3ステージにおいて、教職大学院の役割をどういうふうに想定していくのか、非常にわれわれも悩んでいる」と実感を込めた。