通常学級におけるインクルーシブ教育の実践 期待と課題を議論

通常学級におけるインクルーシブ教育の実践 期待と課題を議論
インクルーシブ教育への期待と課題が話し合われたパネルディスカッション=オンラインで取材
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 インクルーシブ教育の研究に取り組んでいる横浜国立大学D&I教育研究実践センターは2月19日、通常学級におけるインクルーシブ教育の実践をテーマにしたシンポジウムを開いた。同センターのプロジェクトに専門的な立場から携わっている関係者によるパネルディスカッションが行われ、障害のある当事者からは学校がインクルーシブ教育を始めることへの期待の声が上がる半面、学校関係者からはインクルーシブ教育を展開していく際の課題も指摘された。

 昨年4月に設立された同センターでは、障害や病気の有無にかかわらず、全ての子どもが安全で安心できる環境の下で質の高いインクルーシブ教育を受けられるようにするための教育研究活動として、障害のある子どもの高等教育進学や就労への支援と、多様な他者と協働することを積極的に受け入れられる人材の育成を目標に掲げている。同学附属横浜小学校、同横浜中学校での障害のある児童生徒の合理的配慮の検討や、在校生による誰もが過ごしやすい学校施設の改修に向けたワークショップを実施したほか、横浜市と連携した専門的な支援員の派遣など、学校現場のインクルーシブ教育へのサポートも予定している。

 同センターとして初めて行われたシンポジウムでは、同センターのプロジェクトに専門的な立場から助言を行っている関係者が登壇するパネルディスカッションが行われた。

 虎ノ門法律経済事務所専務執行役員の弁護士として活躍する菅原崇氏は、30代のころにけがで肩から下がまひし、社会復帰のために弁護士を目指して法科大学院で学び、日本で初めて音声受験で司法試験に挑んだ経験がある。そんな菅原氏はインクルーシブ教育について「できない理由を理路整然と並べるのは、やめた方がいい。障害者と健常者が一緒に、どうすればできるかを考え続けることが大切だ。もちろん、予算や時間の制限もあるので、あれもこれもとできないことを並べるのではなく、どうすればやりたいことを実現できるかに注目して、その方法をいろいろ考えてみることが大事ではないか」と投げ掛けた。

 NHKメディア総局第2制作センター社会副部長・解説委員の竹内哲哉氏も、幼少期の風邪が原因で急性脊髄炎を患ったものの、リハビリをして松葉づえで地域の小学校に通った。竹内氏はその頃の思い出や取材しているインクルーシブ教育の現状を紹介しながら、「インクルーシブ教育を完璧にできることはほぼないと思っている。徐々に発展して今の形が少しずつ出来上がってきている。だから失敗を恐れずにやってみることが一番大事だ。失敗して退くのではなく、どうしたら前に進めるかを考えることと、子どもが学校にいる期間はあっという間だ。そのときに、この子にとって何が一番大事なのかという視点に立つだけでも変わってくる」と強調した。

 一方で、横浜市教育委員会学校教育企画部特別支援教育課首席指導主事の古川晶大氏は「ある小学校で、車イスを利用している児童が通常の学級で学習をしている様子を参観した。その学校はその子が一緒に学んでいるので、体育の授業ではその子が参加できるようにみんなでルールを考えるといった成果もあるが、この学校はエレベーターが1基しかなく、多目的トイレも設置されているが、学校の段差が完全に解消されているわけではない。自分の教室から別の棟に移動するときに移動式のスロープを掛けて何人かの先生で別のところに行く様子を見た。まだまだそういう基礎的な環境整備で課題があると感じている。横浜は学校数が多いので全校で基礎的な環境整備は難しい状況だが、行政としてしっかりと力を注いでいかなければいけない」と、学校施設のバリアフリーを課題に挙げた。

 神奈川県厚木市立緑ケ丘小学校で特別支援教育コーディネーター・総括教諭をしている芳賀誠氏は「現場で子どもたちや保護者の相談に入っていると、学校が思っているインクルーシブ教育と保護者が思っているインクルーシブ教育にずれがある。その半面、教員の多忙化や業務が拡大している中で、インクルーシブ教育が大事だと思っているけれども、そこまで手が回らないという現実もある。学校の業務改善も含めてインクルーシブ教育を進めていく上で、そうしたずれを修正していく必要がある」と、学校が抱えているジレンマを指摘。「子どもが今、自分はこういうことで困っていると言えるのも大事だ。学校の役割として、いろいろな子どもがいる中で自分の困り感を伝えられる力を養っていくことも、インクルーシブ教育につながっていく」とも述べた。

 また、小児科医で国立病院機構新潟病院臨床研究部小児科医長・子どもの心のケア研究室長を務める西牧謙吾氏は「今の特別支援教育は、例えばかつての特殊教育に発達障害をプラスしたというような『プラス』の教育になっている。しかし『掛ける』の教育にしてほしい。ASD(自閉スペクトラム症)×視覚障害や聴覚障害×ASDなどのように、難しい事例をきっちり指導できるノウハウを、大学はじめ、特別支援学校で培ってほしい」と、特別支援学校の役割に着目して述べた。

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