「生きているからできること」ってなんだろう——。埼玉県川口市立舟戸小学校(加田明校長、児童647人)の2年2組で2月27日、哲学対話を取り入れた道徳の授業が行われた。子どもたちからは「生きているから、けんかができる」「“今”以外のことも考えられる」「前の自分を抜かせる」など、多様な意見が飛び出した。1年間、答えのない問いを考える哲学対話に取り組んできた子どもたちに起きた変化についても聞いた。
授業を行った森理紗教諭は「求められた答えを探すような道徳の授業よりも、価値について深く考えたり、自分や他者の多様な考えに触れたりする中で、対話や議論を楽しめる授業にしたい」と考え、5年前から哲学対話を授業に取り入れてきた。
低学年に哲学対話を取り入れることは難しいように感じるが、森教諭は「例えば『いのちって何?』『どうしてあいさつをするの?』など、子どもたちが普段立ち止まることのないような問いを提示することで、考えるきっかけをつくりたい。また、一つの問いに対して多様な考えや意見があることを知り、互いに認め合ってほしい」と話す。
2年2組ではこの1年、月に1回程度、哲学対話に取り組んできた。この日は「生きる」をテーマに道徳の授業が行われ、子どもたちは“生きている”ことをテーマにした童謡『手のひらを太陽に』を聞いた後、「生きているからできること」について、哲学対話で考えを深めていった。
まず、椅子でサークルをつくった子どもたち。そして哲学対話のルール①話を最後まで聞く②否定しない③話さなくてもよい━━を確認した上で、「てっちゃん」と名付けられたぬいぐるみを持っている子から発言していった。発言し終えると、挙手している別の子に「てっちゃん」は渡されていく。「話せる」「ゲームができる」「けんかができる」「学べる」「今以外のことを考えられる」「人のことを思えたり、思われたりする」などと、子どもたちが考える「生きているからできること」が次々と発表された。
ある子は「前の自分を抜かせる」と発言。森教諭が「それは例えば、どういうことかな?」と問うと、「これまでは5周を5分で走っていたのが、練習して4分で走れるようになったりする」と、自分の経験を交えながら説明し、周りの児童も「分かる、分かる」とうなずいた。
その後も子どもたちの意見がやむことはなかった。友達の意見を聞いて、はっとした顔をして、挙手する。その繰り返しで、あっという間に黒板は子どもたちの多様な意見で埋め尽くされていった。最後は、みんなの意見を聞いた上で「自分では思い付かなかった意見」をノートにまとめた。「今日はたくさん意見が言えた」と満足そうにノートに書いている子もいた。
森教諭は1年間、定期的に哲学対話に取り組んできたことで、クラスの中に互いの意見を否定せず、認め合う雰囲気ができてきたと感じている。子どもたちは多様な意見が出てくることを楽しんでいると言い、「『答えは一つではない』という考えが身に付いたのではないか」と子どもたちの成長に目を細める。
一方で「自分の経験を踏まえて話したり、理由も付けて意見を詳細に語ったりすることには、まだ難しさも感じる。意見の出し合いになってしまうことも多いので、もっと対話を深めていけたら」と森教諭。哲学対話では、板書をせずに対話だけで進めていくのが通常だが、森教諭はなるべく全員が対話から置いていかれないよう、対話の流れや意見を板書で可視化するよう工夫しているという。
子どもたちは「哲学対話は楽しい」「もっとたくさんやりたい」と意欲を示す。どんなところが楽しいのか、子どもたちに聞いてみた。すると、「自分の意見を否定されずに言えるから」「考えがたくさん出るのが楽しい」「友達の意見を聴くと、自分の意見も思い付くから」と目を輝かせながら答えた。