国家予算の20%を教育投資 インドネシアの可能性(小宮山利恵子)

国家予算の20%を教育投資 インドネシアの可能性(小宮山利恵子)
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 インドネシアのジャカルタで、2025年新設予定の「ジャカルタ・ジャパンタウン」の開発が進んでいる。ここは地元大財閥の私有地で、日本文化との融和と共創を目的とした10万人規模の街を目指しているという。

 ジャカルタから30分ほど離れた場所にあるビジネススクールのプラセトエイヤ モレヤ大学は、このジャパンタウンにブランチを作る計画がある。そこでアントレプレナーシップの講義依頼を受けた私は、今年1月に現地を視察してさまざまな発見や驚きがあった。そこで今回は、日本ではまだよく知られていないインドネシアの特徴と教育事情、今後の可能性についての考えを述べたい。

平均年齢が29.9歳のインドネシアの基礎学力

 インドネシアの人口は2億7300万人で世界4位。国民の平均年齢は29.9歳で(21年調べ)19歳以下が全人口の35%を占め、毎年の出生数は約350万人と人口増加が続いている若い国だ。出生数は23年に約75万人まで減り、平均年齢は50歳近くまで上がった老いた日本とは別世界である。

 インドネシアの23年の1人当たりGDPは7500万ルピア(約4900米㌦)とまだまだ低いものの、経済成長率は5%前後を維持して堅調に成長している。

 教育面でも、日本の教育機関への公的支出割合は2.8%、OECD加盟37カ国中36位(19年)と先進国で最低レベルだが、インドネシア政府は国家予算の20%を教育関係に割り当てると定めている。

 その主な理由は、インドネシアが抱える多くの群島をはじめとしたインフラ未整備エリアとジャカルタ都市部の教育格差の課題解決と学力全体の底上げである。インドネシアでは未就学児の教育にも課題があり、20年に0~6歳児が幼児教育機関で教育を受けた割合はわずか約27%。小学校で勉強についていけない児童の数%は留年し、高校の就学率は約78%、大学進学率は約31%とかなり少ない(同)。

 OECDが行っているPISA(国際学力調査)の結果を見ても、インドネシアの学生の読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーは全て70位前後で、基礎学力も不十分だ。

インドネシアのアントレプレナーシップ教育が目指すこと

 ところが、スタートアップ企業創業者のナディエム・マカリム教育文化大臣が20年から実施したプロジェクト「ムルデカ・ブラジャール(自由で自立した学びと教育の規制緩和)」では、小・中学校の進級の可否を決めてきた「全国統一テスト」を廃止。学校の独立性を重んじたテーマ型学習への取り組みにかじを切ったが、「基礎学力が身に付かないまま教科の枠を超えた学習を進めていいのか」と学校現場が混乱している話も耳にした。このプログラムは5カ年計画で今年終了するため、今後どういう教育システムにするべきか再検討が必要だろう。

 こうした国の施策や、現地大学の私への講義依頼からも分かるように、インドネシアは探究学習やアントレプレナーシップ教育に非常に積極的だ。アントレプレナーシップとは起業家精神だけでなく、起業しなくても0から1を創り出そうするマインドそのものを意味する。日本の高校生の課題発見力を育むアントレプレナーシップ・プログラム「高校生Ring」を開催しているリクルートも、アントレプレナーシップを「自ら問いを立て行動し、主体的に課題解決を行っていくシーンで重要な能力」と定義している。

 話を戻すと、私がジャカルタに行って実感したのは、国を挙げて変化を起こそうとしているインドネシア人の活気とバイタリティーだ。失敗を恐れず取りあえずやってみようと行動する彼らのチャレンジ精神と熱量も伝わってきた。

子どもの多さと教育投資は国力に直結する

 やはり「数は力」だ。インドネシアの子どもの多さと教育への投資は間違いなく国力に直結していくだろう。今は基礎学力が低くても、ポジティブでやる気に満ちた国民性でその課題をクリアして、アントレプレナーシップ教育が浸透すれば、爆発的な国力を発揮する可能性がある。

 少子高齢化が加速して教育市場が縮小していく日本はこれから、インドネシアのように急成長している国で教育を提供することも視野に入れた方がいいのではないだろうか。教育に限らず、日本のエンターテインメント、食文化、観光資源も、親日派のインドネシア人にとっては魅力的だ。

 インドネシアは、人口に比べてエンタメ系のコンテンツが少なく、テレビのチャンネルはたくさんあるのにほとんど空いている状況のようだ。「観光地」と呼ばれるところですぐに頭に浮かぶのはバリ島だろう。日本の地方自治体が観光PRのためジャパンタウンにアンテナショップを立ち上げようと視察に訪れたこともあるらしい。食文化も、人口の約9割がイスラム教徒で豚肉はご法度だから、鶏肉や魚を使った料理が多く、日本の寿司も人気だった。

 一方、日本の漁業は人手不足のため技能実習生の受け入れが盛んで90%以上がインドネシア人で占められているという(同)。日本でスキルを習得したインドネシアの若者は帰国してエビの養殖業をはじめとした漁業で活躍しているケースも多く、最近は寿司職人になる人も出てきているそうだ。

市場が縮小していく日本の未来に必要なこと

 そういった面でも、インドネシアと日本は親和性が高く、経済力さえあれば日本のエンタメを楽しみたい、日本を観光したい、日本のおいしいものを食べたいと思っているインドネシア人はたくさんいる。そのマーケットの大きさに魅力を感じる日本企業や教育産業もあるはずだ。

 ただし、日本の民間企業が現地に法人を設立すると、登録料だけで約9500万円をインドネシア政府に払わなければいけない。そのため、地元の企業がオペレーションを担当して合弁会社にするケースが目立つという話も聞いた。

 それでも、子どもが激減している日本で経済発展を目指すのは難しさがあるため、インドネシアのように高いポテンシャルを持った国と教育的、ビジネス的な観点から協働、連携していくことは、日本の未来を考える上でも今後ますます注目されるに違いない。

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