高校教育を巡る今後の施策の方向性について検討している中教審初等中等教育分科会の「高等学校教育の在り方ワーキンググループ(WG)」は4月9日、第11回会合を開き、東京都や大阪府が始めた高校教育の授業料無償化など、自治体が国の制度に上乗せする形で独自に進めている高校の就学支援の拡充を議題の一つに取り上げた。委員からは、所得制限をなくした東京都や大阪府に住む場合とその周辺の府県に住み、都内や大阪府内の高校に通う場合で不公平感が広がることなどから、国による施策として地域格差が生じないようにすることを求める意見が出た。
国による「高等学校等就学支援金交付金制度」は年収910万円未満の世帯に対し、高校の授業料を支援。2020年4月以降、支給上限額を引き上げ、年収590万円未満世帯であれば、私立高校も含め授業料は実質無償化されている。東京都や大阪府では、この制度に独自の支援を上乗せする形で、私立も含めた高校の授業料について、所得制限のない無償化の取り組みを始めているほか、一部の府県でも対象世帯の拡大や支援額の引き上げなどが行われている。
こうした動きを受けて、この日の会合では高校の就学支援の取り組みが、高校教育にどのような効果や影響を与えるのかを議題に取り上げた。
これについて冨塚昌子委員(千葉県教育委員会教育長)は、東京都と同様の所得制限を撤廃した高校の授業料無償化を千葉県で実施した場合、年間で私立学校分で100億円、公立学校分で25億円の予算が必要になるという試算を紹介。「千葉県から東京都の私立高校に通っている生徒の保護者にとってはやはり不公平感が生じてしまう。江戸川一本隔てて大きな違いがあり、それが地方の財政力に起因してしまうというような大きな影響が出るものは、国で議論してもらう必要がある」と呼び掛けた。
また、長塚篤夫委員(順天中学校・高等学校長、日本私立中学高等学校連合会常任理事)は、大阪府の場合、補助の上限である63万円を超える授業料を設定している私立高校に対して学校負担を求める「キャップ制」としている点を挙げ、「私立学校は建学の精神に基づいて特色ある多様な教育を展開している。そこに『キャップ制』という教育費の上限が決められると、多様な教育ができないということがすでに起きている」と強調。「私学の教育の質が一定のところまででとどめられてしまい、それ以上は学校負担となっているが、学校の誰がどう負担するのか意味不明だ」と疑問を投げ掛けた。
教育行政学が専門の青木栄一委員(東北大学大学院教育学研究科教授)は「公立と私立のマーケットが融合し始めている。私立学校の無償化によって事実上のバウチャーと同様の効果を発揮しており、多くの都道府県では全県1学区の潮流があるので、これは明らかに都市部の私立学校への流入が加速する政策になると予測できる」と指摘。公立高校の振興策が早急に必要になるとの見通しを示した。