世界中で教育問題が深刻化している。共通の問題もあれば、それぞれの国特有の問題もある。4月4日に米調査機関ピューリサーチセンターが『現在の米国の教師が置かれている状況』と題する調査報告を発表した。公立の小学校、中学校、高校の教員2531人を対象に、昨年10月17日から11月14日にかけて行われたものである。調査内容は「教員の仕事の満足度」「教員の仕事の仕方」「公立学校の生徒が直面する問題」「教室での課題」「教員が保護者の関与をどう見ているか」「教員の公立学校の現状に対する評価」と極めて広範にわたっている。
本稿では調査結果を全て紹介することはできないので、いくつかの結果を取り上げたい。まず「教員の仕事の満足度」の調査結果を見てみる。
他の職種に比べて教員の「仕事の満足度」はどの程度なのだろうか。全教員のうち、「非常に満足している」と答えたのは33%、「まあ満足している」が48%、「全く満足していない」が18%であった。この回答を全産業の調査と比較して見ると、全産業では「非常に満足している」が51%、「まあ満足している」が37%、「まったく満足していない」が12%。この比較から、教員の仕事に対する満足度は低いのが分かる。「まったく満足していない」は全産業の12%に対して、教員は18%とかなり高い。学校のレベルによっても差が出ている。小学校教員の39%、中学校教員の50%、高校教員の53%は「仕事に満足している」「まあ満足している」と答えている。低学年ほど、仕事に対する満足度は低くなっている。
具体的には、満足度の順番で言えば、「同僚との関係」は71%、「学校の管理職との関係」は52%、「カリキュラム実施の自由度」は46%、「両親との関係」は45%だった。「最も満足度が低い」のは「給料」の51%。本欄で何度も指摘してきたが、世界各国の共通の問題は低賃金にある。やや意外であったのは、多くの教員は「同僚との関係」に満足していることだ。仕事の自律性が高く、個人主義の国と思われている米国でも、職場の人間関係が非常に重要なことが分かる。
さらに「カリキュラムの自由度」に満足している割合が高いのも注目される。米国では全国一律のカリキュラムは存在せず、教育委員会の主体性が高い。教委と教員の意思疎通が円滑に進んでいるのであろう。ただカリキュラムとの関係でいえば、「授業に必要な資料などの入手」に関しては、「まったく満足していない」が23%に達している。さらに「新しいスキルの習得の訓練の機会」についても、23%が「まったく満足していない」と答えている。
学校の問題としては「児童生徒の貧困」が「大きな問題である」と答えた比率は53%、「問題である」と答えた比率は38%で、実に合計で91%にも及んだ。また49%が「長期欠席」を「大きな問題」と答えている。「問題である」を含めると92%に達する。「児童生徒の精神的な問題」を「大きな問題」としたのは48%であった。「いじめ問題」を「深刻な問題」と答えたのは20%であるが、「問題である」を含めると87%に達している。日本の公立学校では問題となっていないが、米国では「ドラッグ問題」を「大きな問題(14%)」「問題(36%)」と答えた比率の合計は50%だった。「校内暴力」も59%が「問題」としている。
教員の頭を悩ましているのは、児童生徒の学習姿勢である。教員の47%は、児童生徒が「学ぶことに全く興味を示さない」「ほとんど興味を示さない」と答えている。33%の教員は教室でのスマートフォンの使用が問題であるとしている。特に高校では、72%の教員が「大きな問題」であると答えている。スマートフォンの使用規制に関して、全体の教員の30%が児童生徒をルールに従わせるのは「非常に難しい」と答えている。中でも高校教員の場合は、60%が「非常に難しい」だった。
授業中に児童生徒が立ち上がって、教室内を歩き回るのが問題と答えた教員は20%いた。68%の教員は、児童生徒の「言葉による暴力や脅し」を経験していると答えている。物理的暴力を経験したと答えた教員は40%いた。児童生徒に対する「しつけ(discipline)」に関して、66%の教員は「生ぬるい」と感じている。「非常に厳しい」と答えたのは2%にすぎない。授業に加えて児童生徒の行動指導を毎日行っていると答えた教員は58%。また28%の教員は毎日、児童生徒の精神的な問題や健康問題に対処しなければならないと答えている。
ここでは限られた調査結果しか紹介できないが、それでも米国の教員が置かれている状況は日本よりもはるかに厳しいものであることが分かる。日本で同様の調査が行われていないので、明確な比較はできないが、読者それぞれで自分の経験に照らして比較してみてはどうだろうか。