長時間労働は解消しない 特別部会に3団体が再考求める

長時間労働は解消しない 特別部会に3団体が再考求める
記者会見する3団体のメンバーら=撮影:藤井孝良
【協賛企画】
広 告

 中教審の質の高い教師の確保特別部会が5月13日に、教職調整額の引き上げなどの教員の処遇改善策を打ち出した「審議のまとめ」を取りまとめたのを受け、同日夕方に「教員の長時間勤務に歯止めをかけ、豊かな学校教育の実現を求める教育研究者有志の会」と「給特法のこれからを考える有志の会」、日本労働弁護団は文部科学省で記者会見を開き、「審議のまとめ」の問題点を指摘した。3つの団体のメンバーは、「審議のまとめ」が示した内容では教員の長時間労働の問題は解決しないとし、議論のやり直しを求めた。

給特法維持の根拠が薄い

 「教員の長時間勤務に歯止めをかけ、豊かな学校教育の実現を求める教育研究者有志の会」や「給特法のこれからを考える有志の会」ではこれまで、給特法の見直しや教員の長時間労働の是正に向けた署名活動を展開し、そのための施策も提案してきた。また、日本労働弁護団でも同日付で「審議のまとめ」について、「教員の長時間労働を是正するためには誤ったものと言わざるを得ない」とする緊急声明を公表した。

 この日の記者会見で、「給特法のこれからを考える有志の会」のメンバーで岐阜県の公立高校教諭の西村祐二さんは、「審議のまとめ」における給特法に関連する内容について「給特法について、教職調整額を上げるのみの小幅な見直しにとどまってしまったことは決定的な失策だった」と指摘。「給特法の抜本的な見直しの議論は今回十分に尽くされなかったが、この先の継続審議はぜひしてほしい。それがないとわれわれは本当に希望を失う。根拠が薄い状態で給特法が必要だと言われても、誰も納得しない」と、今後も議論を続けることの意義を強調した。

 日本労働弁護団事務局長の竹村和也弁護士は「給特法の枠組みの下では、実効的に労働時間を管理して長時間労働を抑制する制度的基盤が奪われたままになる。弁護団としても給特法の見直しのみによって、ただちに長時間労働が是正されるとは考えていないが、基盤整備を全くしないまま何ら実効的な改革も示さずに、働き方改革のさらなる加速化を掲げるだけの『審議のまとめ』になってしまっている。これは極めて落胆する内容だ」と批判。

 「審議のまとめ」が示した時間外労働手当(残業代)の支払いを否定する論拠について、「労働基準法は労働者の生命・身体を保護するための最低基準で、労働時間規制はその一丁目一番地。中核的なものとして時間外労働手当の支払いがある。それを除外することを正当化できる理由があるのかどうかが問われているが、全くそういう記載はなかったと思う。(『審議のまとめ』では)国立、私立学校との比較もあったが、違いが並べられているだけで、時間外労働手当を支払わないことを正当化する理由には全くなっていない」と、その理論的な脆弱(ぜいじゃく)性に疑問を投げ掛けた。

人を増やすための道筋を

 一方、「教員の長時間勤務に歯止めをかけ、豊かな学校教育の実現を求める教育研究者有志の会」の中嶋哲彦愛知工業大学教授は、「審議のまとめ」の方向性について「目標が低過ぎる。いや、登るべき山を間違えている」と批判。その上で「文部科学省として安易な道を選んでしまった。人を増やそうとしていない。人を増やすことが今回登るべき山だった」と説明し、施策の達成時期が示されていないことや、人材確保法による優遇と給特法の教職調整額という目的の異なる制度を一緒にして、教職調整額の引き上げを議論している点などを問題として挙げた。

 同じく「教員の長時間勤務に歯止めをかけ、豊かな学校教育の実現を求める教育研究者有志の会」の浜田博文筑波大学教授は、2022年に文科省が行った「教員勤務実態調査」で在校等時間は減少したものの、自宅へ持ち帰って仕事をしている時間が増えている傾向について、「審議のまとめ」でほとんど触れられていない点を問題視。

 この背景として、他の教員や保護者、生徒が関係する業務など、学校でやらざるを得ない仕事を優先し、授業準備や教材研究などを自宅に持ち帰らざるを得ない構造になっていると解説した上で、「本来的に専門職としての教員がやらなければいけない仕事(授業準備や教材研究)は、このような形で自発的なボランティアのような位置付けになっている。ここを解消するための方策は授業の持ちコマ数を減らす以外にない」と強調し、「審議のまとめ」では見送られた授業の持ちコマ数の上限を定めるための義務標準法の見直しも議論すべきだとした。

広 告
広 告