「誰1人取り残さない」実践 先端技術を活用した授業例を報告

「誰1人取り残さない」実践 先端技術を活用した授業例を報告
「誰1人取り残さない」教育の実践事例を報告した発表者ら=撮影:山田博史
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 「誰1人取り残さない」教育の実現に向けて、ICT技術などを駆使しながら学校現場で取り組んでいる授業の事例を発表するセミナーが5月9日、東京ビッグサイトで開かれた。小学校から高校まで、先端技術を活用して全ての児童生徒に向き合う授業を展開している教員らが日頃の取り組みの工夫や成果について語った。

 「最先端授業事例発表―誰1人取り残さないは本当に実現できているか?―」をテーマとしたセミナーは、EDIX(教育総合展)東京のプログラムの1つとして開かれた。発表したのは、東京都渋谷区立神南小学校主幹教諭の鍋谷正尉さんと長野県飯田市教委学校教育課教育指導専門主査の木下耕一さん、新潟県立新潟翠江高校教諭の高見砂織さんの3人で、信州大学名誉教授の東原義訓さんが司会進行を務めた。

 セミナーでは、はじめに東原さんが、「『誰1人取り残さない』の実現はこれまでの授業スタイルでは難しかったが、ICTの力を借りることで実現に近づいているといえる。講師の3人は小中高で科目も違うが、いずれも『誰1人取り残さない』を実践している共通項があり、最先端のテクノロジーをどのように使って実践しているか話していただきたい」と述べた。

 神南小の鍋谷さんは、小学校に勤務しながら教育用コンテンツの開発などに取り組んでいる。発表では、基本的な計算や図形を使って角度を調べられる算数のデジタル教材を独自に開発したところ、ノートをとることが苦手な子も使える効果とともに、児童たちがクイズを出し合うなど独自に応用しているエピソードを紹介。「基本機能を備えたものをつくると、子どもたちは工夫しながら学習を進めてくれる」と述べ、汎用(はんよう)化できるツールの開発が効果的であると強調した。ただし、「一個人でこうした開発はやり切れないので、教材会社などで広く開発し、提供することで、救われる子どもがたくさんいると思う」と述べ、協力を呼び掛けた。

 飯田市教委の木下さんは、外国語教育に関して、言語活動の質の向上には練習場面のレベルアップが必要との観点から、アプリを使った「セルフラーニングタイム」を中学校で導入した取り組みを紹介した。これは生徒が自分のペースで音読練習を重ねた上で録音すると、アプリが発音などを評価してくれる仕組みで、会場では、ある生徒の練習開始直後と1カ月後を比較した音声データが流され、生徒の成長ぶりが披露された。

 木下さんは「この試みの本質は、生徒が自分で学び方を学び、手応えをつかんでいくこと。義務教育からこうした学習体験を重ねることで、社会に出てからも学び続ける大人になるのではないかと感じている」と述べ、今年度中に飯田市内の全中学校の導入を目指していると述べた。

 新潟翠江高校の高見さんは、通信制高校で対面授業をしながら、昨年度、佐渡市など県内2校への同時配信で実施した化学基礎の遠隔授業について、映像も交えて報告した。この中で高見さんは、遠隔授業では、生徒全員のノートを一斉にモニターで確認して手助けが必要な生徒に適切に声を掛けられるなど、対面ではできなかった個に応じた指導や、生徒の困り事に気付くことができるようになったと述べ、「こうした点は、遠隔授業だけでなく対面授業でも効果的ではないかと気付かされた。多様な生徒のニーズに対応できる授業づくりを通して『誰1人取り残さない』を実現することが大切だと思う」と述べ、今後も生徒の悩みに応えていきたいと強調した。

 3人の報告を踏まえ、東原さんは「報告を聞いて、テクノロジーだけでなく、先生方の『一人一人の子どものニーズに応えたい』という強い心があってこそ、『誰1人取り残さない』が実現していることが伝わってきた。汎用的なツールの開発や、生徒が学び方を学ぶことの大切さ、多様性への対応と、報告にあった3つの観点を大事にしていかなければいけないことを改めて教えられたと思う」と締めくくった。

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