自民党教育・人材力強化調査会(会長・柴山昌彦衆院議員)は5月16日、会議を開き、質の高い高等教育の実現に向けた提言をまとめた。提言では、「質の高い教育へのアクセス確保に向けた〝人への投資〟の拡充」を打ち出し、地域における学びを確保しつつ高等教育機関の再編・統合を促進することや、意欲ある誰もが質の高い教育を受けられるよう授業料の国の先払い制度(日本版HECS)の本格導入などが盛り込まれた。柴山会長は「さまざまな産業政策も、それを支える人材がいなければ絵に描いた餅になる。提言を骨太の方針に反映するよう働き掛けたい」と述べ、近く岸田文雄首相らに申し入れる意向を示した。
同調査会は昨年11月から、「高等教育の無償化」や「大学再編および専門人材育成」についてさまざまな団体からヒアリングをしつつ集中的に議論を重ね、同日、提言をまとめた。
提言では、「完全無償化」については、授業料を家計から公費負担としているに過ぎず、質の高い教育環境の実現にはつながらないとして、単なる負担軽減競争から質の高い教育の実現に向けた「人への投資」の拡充が必要だと打ち出した。その上で、人口減少が進む中での高等教育は質の担保された高等教育機関への再編や地域でのアクセス確保が課題だとして、「手厚い支援と厳格な評価をセットで進めることが不可欠であり、評価を見える化することで再編も加速すると考えられる」(柴山会長)と強調し、地域における学びを確保しながら高等教育機関の再編を進める方向性を示した。
実施すべき取り組みとしては、大学の教育研究の質の高度化に向けて学生への厳格な成績評価や卒業認定を促進することや、定員規模の適正化に向けて定員を縮小する代わりに助成などによる支援の仕組みをつくること、地域での高等教育へのアクセス確保のために産学官が連携して議論する協議体の設置推進などを盛り込んだ。
一方で、意欲ある誰もが質の高い教育を受けられるよう、学生の教育負担軽減にかかる支援方策として、授業料の国の先払い制度の2026年度の本格導入を目指すことも盛り込んだ。これについて柴山会長は「導入を目指す上で、日本社会で長らく保護者負担を前提としてきた教育費負担の現状をどうするか、子育て施策との関係はどうなるか、対象とすべき範囲をどうするかといった考慮すべき点があり、十分検討してスタートしたい」と述べ、今後具体的な議論を進めたいとの考えを示した。
柴山会長はこうした施策を進める上で、「教育・人材力強化にかける予算は増えていかざるをえないと考えている。将来の経済成長や格差の固定化打破を乗り越えるためには必要な先行投資であり、教育国債も検討すべきと考えている」と強調し、必要な予算の確保を政府に求める考えを示した。