標準授業時数を減らし、学びの「余白」を確保すべきだ(庄子寛之)

標準授業時数を減らし、学びの「余白」を確保すべきだ(庄子寛之)
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教員採用倍率を上げる鍵は「教員が子どもと関わる余裕」

 1年間で最も忙しい4月、そしてゴールデンウィークが終わった。これから夏休みまでの長い1学期(前期)が始まる。

 昨年度、東京都の教員採用試験の倍率は小学校で1.1倍となった。私の周りでは、4月に担任が不在でスタートした学級があったとは聞いていないが、専科教員が来ず、正規の雇用人数より1人少なくスタートした学校は数校あったようだ。つまり1.1倍の採用倍率があっても、辞退した人や、3月までの退職者が予想をオーバーしたことも考えられる。

 どちらにせよ、今年度も産休や育休、病休に入った教員の代替教員はなかなか来ないと思うしかないだろう。2・3学期(後期)は、さらに厳しい状態で学校運営をしなければならない。それを見越した上での1学期(前期)の学校経営をすべきだろう。

 教員採用倍率を上げるためにすべきことは何だろう。教職の魅力を向上させる策の一つは「教員が子どもと関わる余裕を持つ」ことである。

 小学校でいえば、1日平均5時間程度の授業時数がある。5時間分全ての教材研究をして、授業に取り組む時間はない。その間に保護者の連絡帳対応、子ども同士のトラブル対応もある。放課後は事務作業。中学校であれば部活動もある。全てを担任が請け負うことの限界に、誰もが気付いているはずだ。

次期学習指導要領では、標準授業時数を減らすべきだ

 そのためにも、次期学習指導要領の標準授業時数は減らすべきであると考える。もちろん国語も算数も理科も社会も、その他の教科も、どれも大切だ。しかし、現在教科として教えていない金融教育だって人権教育だって、ICT教育だって大切だ。昨年から生成AIが出てきたが、もちろんこのようなことを学ぶことだって必要である。つまり、10年に1回の学習指導要領で、これからの時代に必要な学習内容を網羅することには限界がある。

 そのためにも、標準授業時数を減らして、各自治体、もしくは各学校で臨機応変に使うことのできる「余白」の時間を確保すべきである。もちろん、教員がさらに忙しくなるようなことはないようにすべきである。

 子どもの発達から見ても、現状の授業時数が本当に正しいのかを考える時期に差し掛かっていると思う。小学生らしい睡眠時間を取り、健康的な生活をするためには何時間、学校で学習することが適しているのだろうか。

 学校では働き方改革のために、授業間の休み時間が5分間になり、給食時間や休み時間も短くなる傾向にある。午前5時間授業にして働き方改革を進めている学校もあるが、子どもにとってはどうなのだろうか。教師だけでなく、子どもたちからみても、やはり標準授業時数に切り込む必要がある。

標準授業時数削減のハードルは高い

 標準授業時数を減らすべきだという議論はこれまでもたくさんあったが、それでもできなかった背景もある。

 1つ目は、いわゆる「ゆとり教育」への批判に見られるような、学力低下への懸念だ。2000年代前半に小中学生だった人を「ゆとり世代」などと呼ぶことがあるが、この年代の人たちの能力が他の年代と比べて低いなどという確固たるデータはないはずだ。大活躍している人だっている。ゆとり教育が、日本の教育を悪くしたわけではない。むしろクリエーティブな人材が増えたという側面はないのか。改めて、ゆとり教育の功罪については研究していただきたい。

 これに関連して、2つ目は各自治体が全国学力・学習状況調査の結果を争っていることである。標準授業時数が少なくなれば、その空いた時間で知識を詰め込む自治体がないとも限らない。全国学力調査の点数を上げるためには、その対策をすればよいからだ。その結果、点数が上がることには、何の意味もないと思うのだが。

 同じようなものに、国際学習到達度調査(PISA)の結果がある。2022年の調査では、日本はとても良い成績であった。それなのに、ニュースでは成績が下がった時ほど大きく扱われなかった。標準授業時数を減らし、仮にPISAの結果が下がることがあれば、「なぜ標準授業時数を少なくしたんだ!」という声が上がることは容易に予想できる。

 最後は、各教科の研究会の存在だろう。標準授業時数を減らすことには賛成でも、自分の代で自分の担当する教科の時数を減らすわけにはいかないと各教科調査官も考えている。教科調査官が全員、そう言ってしまっては、標準授業時数を削減することはできない。しかし個人的には、教科の名前も統合して、「基礎」と「選択・応用」くらいに大きく再編することも必要な時代なのではないかと思う。

新しい考えを生み出せるような子を育てていくために

 こうした障壁があっても、やはり私は標準授業時数を少なくすべきだと考える。現状の授業時数に、教員は限界を迎えていると思う。もちろん教員を増やし、一人一人の持ちコマ数を少なくすることで解決できるが、人口減少の時代の中で抜本的に教員を増やす策は、なかなか現実的ではない。

 子どもにとってもそうだろう。今まで思い付いたことのない、新しい考えを生み出せるような子どもたちを育てていくために、もっと自由な時間の中で、それぞれの個性に応じた学びを深める必要がある。教室に座って学ぶ以外の学びもどんどん行うべきだ。それが、不登校対策にもなってくると思う。次期学習指導要領の議論を、しっかり見守っていきたい。

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