戦後80年を目前に控えて戦争を体験した世代の高齢化が進む中、日本遺族会(水落敏栄会長)は5月17日、戦争を体験した戦没者遺族が次世代の子どもたちなどに体験を語る、同会の「平和の語り部事業」を学校教育に活用するよう求める要望書を、盛山正仁文科相に渡した。盛山文科相は都道府県教育委員会などに周知する方針を示した。
同会の水落会長が文部科学省を訪れ、盛山文科相に要望書を手渡した。日本遺族会の「平和の語り部事業」は、戦後50年の1995年ごろから始まり、全国各地で草の根的に続けられている。戦争体験者である遺族が子どもの頃の記憶を地域の歴史とともに話す「講話型」をはじめ、遺族と学生などが戦争体験者の記憶から平和について話し合う「対話型」や、戦跡や遺構(防空壕跡など)を見学する「体験型」があり、戦争の記憶を次の世代へ伝える貴重な機会となっている。最近では、沖縄への修学旅行の事前学習として、沖縄戦で父親を亡くした遺児の体験談を聞く活動が高く評価されているという。
この活動は全国で年間約1000回行われ、ボランティア活動的な要素が強いが、今年度は厚労省の補助事業として採択され、より組織的に語り部を派遣したり戦跡ツアーを企画したりできることになった。このため改めて文科相に要望することになったという。
要望書では、「戦後78年余りが経過し、戦争体験者である戦没者遺児の平均年齢が83歳となる中、今記憶を伝承していかなければ永遠に失われてしまうでしょう」と危機感を示し、「戦没者遺族の体験は二度と戦争の惨禍を繰り返させないための貴重な教訓です。この教訓を次世代へ伝承し、戦争と平和を考える機会として、ご利用いただきたい」と学校での活用に取り組んでほしいと求めている。
これに対して盛山文科相は「戦争の記憶を持つ世代が次世代に伝えることは、混沌(こんとん)とした世界情勢の中で非常に大切だ」と話し、6月に都道府県教委の関係者が集まる会議の場などで周知する考えを示したという。