全国の高校の校長らで構成される全国高等学校長協会(全高長)は5月22日、さいたま市の大宮ソニックシティホールで第76回総会・研究協議会を開き、新会長に東京都立三田高校の内田隆志校長を選出した。内田校長は高校でも教員不足が深刻な課題であるとし、定数改善や働き方改革に向けて国に働き掛けていく方針を示すとともに、教科教育研究の充実が重要だと強調した。研究協議会では、地域と連携した防災教育を高校の重要なミッションとして捉えた北海道の取り組みや、専門高校の特色を生かして地域の課題解決に貢献している実践が報告された。
総会で新会長に選ばれた内田校長は「質の高い教師の確保と育成、個別最適な学び、協働的で独創的な学び、指導と評価の一体化、普通科改革、働き方改革、大学入試改革、高大接続改革など、私たち教育現場における課題はいずれも重要かつ喫緊の対応が必要なものばかりだ。中でも、教員不足は小学校、中学校ばかりでなく、高校においても深刻な問題となっている」との認識を示した。中教審の質の高い教師の確保特別部会が取りまとめた「審議のまとめ」に関して、特別部会の委員には小中学校の校長が入っているものの、高校や特別支援学校の校長は加わっておらず、議論も小中学校の課題を中心にしたものになっていると指摘。全高長の中でも高校の定数改善を求める声があることを踏まえ、引き続き国に対する働き掛けに取り組む考えを表明した。
その上で「教科教育の専門性を立脚点に、令和の日本型学校教育の在り方を改めて考え、求められてきた新たな役割と果たすべき責務を精査した上で、自ら、そして社会からリスペクトされるべき指導の在り方を考えていかなければならない。そのためにも先進的な取り組みをしている校長の実践や全国各地で活躍する生徒の生き生きと学ぶ姿を共有し、教科教育研究を充実させ、大学の研究に対する提言も含めて発信していくことが重要だ」と、教科教育研究に力を入れるべきだと語った。
前会長で東京都立桜修館中等教育学校の石崎規生校長は退任にあたり、「全高長の最も大きな役割の一つは、教育をより良くするために声を上げていくことにある。特に、誰にでも同じ教育を受ける機会があること、勉強すれば誰にでも同じチャンスがあるということはわが国の活力の一つとなってきたとても大切なことであり、地方の校長、本当に困っている校長の声を届けていかなければいけないと思ってきた」と振り返り、「ようやく最近、是非は別として教職調整額の見直しやDX加速化推進事業など、教育へ投資しようという機運も芽生えてきた。私たちがその思いを訴え続けていけば、世の中も変わってくるものと信じている。この機を逃さず、高校教育の充実と発展に向けて、内田新会長の下で力を合わせて取り組んでいこう」と、バトンを託した。
総会後に開かれた研究協議会では、北海道函館西高校の古御堂(ふるみどう)徹校長が、北海道高等学校長協会管理運営委員会として昨年度から取り組んでいる防災教育のアップデートについて発表。新時代に対応した高校経営の在り方の一つとして、地域の防災拠点としての役割があると問題提起し、2019年に北海道で開かれた「世界津波の日」の高校生サミットの成果を生かした指導案の作成や、地域と連携し、防災グッズの作成や疑似避難所の開設などを取り入れた「1日防災学校」の実践事例の展開などの成果を報告した。
古御堂校長は「1日防災学校」を始めた道内の高校に共通する思いとして「地域とやっているのだが、もっと地域と連携できるのではないか、もっと子どもたちを貢献させることができるのではないかという課題が浮かび上がってきた」と話した。
また、園芸科や自動車科、情報処理科を持つ千葉県立下総高校では、地元を流れる利根川での大繁殖が問題となっている特定外来生物のチャネルキャットフィッシュ(アメリカナマズ)を活用した有機肥料の実践や、成田空港の第3滑走路造成工事で伐採された樹木を利用した堆肥づくりなどが地域で評価されていると紹介。同高の長野泰紀校長は「世界中で誰もやっていない取り組みなのでワクワク感がある」と、地域の課題を学校の特色を生かして解決していくユニークな学びが、生徒や教職員のチャレンジ精神に火を付けていることに手応えを感じていた。