芸術系教科の現状をヒアリング 文化芸術教育の検討会議

芸術系教科の現状をヒアリング 文化芸術教育の検討会議
芸術系教科の現状について話し合った検討会議の第8回会合=オンラインで取材
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 学習指導要領の改訂を見据え、今後の文化芸術教育の方向性を議論している文化庁の検討会議は5月30日、第8回会合を開き、新たに委員に加わった美術教育、書道教育、音楽教育の専門家から、現状の芸術系教科に関する課題や検討会議の「論点整理」に関するヒアリングを行った。各専門家からは、芸術系教科が情操教育と捉えられていることへの疑問や、子ども自身も含めて「うまい・下手」で評価しがちであること、子どもにとって「同調圧力」になっている側面があることなどを課題に挙げた。

 3月29日に開かれた前回会合で出た検討会議の「論点整理」では、文化芸術教育において、GIGAスクール構想の進展やSTEAM教育の重要性が増す中で、表現したいイメージを身体や用具を使って具体化していく活動と、ICTで表現する活動を適切に組み合わせていくことや、芸術系教科を、個別性、即興正、創発性のある学びを促すために学校教育で非常に重要なものとして位置付け、学びの転換をリードしていく必要があるとうたっている。

 この日の会合では、今回から新たに委員に加わった大坪圭輔委員(武蔵野美術大学名誉教授、日本美術教育連合代表理事)、加藤泰弘委員(東京学芸大学教育学研究科教授)、齋藤忠彦委員(信州大学教育学部教授)が、「論点整理」を踏まえた現行の芸術系教科の現状をそれぞれ報告した。

 美術教育の観点から発表した大坪委員は、英国と比べ日本の文化芸術は一般市民の日々の中にあるという主体者意識が弱いとの見方を示し、学校における文化芸術教育には、多様性を踏まえた自己理解の深化と資質・能力としての「汎用(はんよう)的創造性」の育成が求められると強調した。

 この「汎用的創造性」について、大坪委員は「論点整理」で言及されているSTEAM教育の土壌となるような要素で、よりよきものへの志向や積極的思考、人間性の反映、暗黙知と形式知の融合などが含まれる概念で、情操に代わる性質だと説明。「現代において、今後の社会を考えたときに『情操』という言葉でいいのだろうかという疑問がある。学校教育全体の中で芸術教育は情操教育に位置付けられているからこそ、やる価値があるという意見があるのは承知しているが、汎用的創造性は『情操』も内包しなければ、真の創造性はあり得ないという考え方をしている。この汎用的創造性が『情操』に代わる可能性がないか精査してみたい」と投げ掛けた。

 国語の書写を含む書道教育を研究している加藤委員は、書道は言葉を書く芸術だとした上で、同じ芸術系教科でも、音楽や美術が小中学校から積み上げられているのに対し、書道は、小中学校では国語の中の書写で、文字を整えて正しく書く領域として位置付けられており、高校になって初めて芸術科目としての書道を選択できる構造だと指摘。「国語の書写から芸術の書道への接続に課題がある。どうしても文字を書くことになると『うまいか、下手か』の視点で授業が展開されてしまう。生徒の意識もそうなってしまっている」と述べた。

 音楽教育が専門の齋藤委員は、従来の音楽教育の課題の一つとして、例えば合唱で全員が大きな声でそろえて歌うといった「同調圧力」の要素があったのではないかと振り返り、「自ら表現することは苦手だけれど、鑑賞は大好きだという子どもがいてもいいのではないか。これまでの学校教育は苦手だからこそ力を付けさせることを目指してきたが、卒業後の子どもたちの人生は、その人らしい多様な音楽との関わりが想定されるので、これまでの価値観の見直しが考えられるのではないか」と問題提起した。

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