教育現場への生成AIの導入を巡って、各国で積極的な議論が行われている。本欄でも昨年、米国と英国での議論を紹介した。その後、技術的な改善が加えられ、5月13日には最新版の「GPT-4o」が発表された。驚異的な開発スピードである。筆者は仕事柄、毎日、膨大な数の英文の記事やレポートを読んでいる。以前は使い物にならなかった翻訳機能も長足の進歩を遂げている。検索能力も大幅に改善されている。その結果、研究や原稿執筆時間が大幅に短縮されている。まだ著作権問題など解決しなければならない課題もあるが、さまざまな分野で生成AIの使用は不可欠となりつつある。教育現場も例外ではない。
オーストラリアの教育メディア『The Educator』は、生成AIが教育に与える影響に関してシリーズで分析記事を掲載している。5月24日の記事「Harnessing AI in education: A path to better teaching and learning(教育におけるAIの活用:より良い教育と学習への道)」は、「AIが教育環境を根本的に再構築し、子ども、教師、リーダーに前例のない機会を提供している」と指摘している。さらに「AIは教師や校長の管理業務を軽減し、子どもとより頻繁に接触する上で役に立つ。遅れた子どもをより早く見つけ出し、支援し、自分の強みを見つけるのを手助けできる。AIによるフィードバックの速さは、それを実現するのに役立つ」と、教育におけるAIの可能性を指摘している。
同記事は、3月に開催されたバーチャル円卓会議で行われた専門家の議論を紹介している。ある参加者は「教育現場でデジタル教育と学習を強化する必要がある。大胆かつ慎重に行わなければならない」と語っている。また別の専門家は「AIを前倒しして次に何が起こるか心配し過ぎると、物事を後退させることになる」と、過剰な懸念を抱くより、可能な限り導入を促進すべきだと主張している。さらに「私たちの仕事はカリキュラムを提供することだが、AIの利用がますます重要になってくる」との指摘もあった。
また同記事は、ニューサウスウェールズ州は教育に特化し、学齢期の子どもに適したバーチャル・チューター・プログラムである「NSWEduChat」を独自に開発し、「独自の質問を子どもに投げ掛け、応答することで、子どもたちが扱っている概念と、答えに到達するために使用された計算を実際に理解させることができるようになっている」と、行政サイドの取り組みも紹介している。また同州は「AI検出ツール」も開発している。州の担当者は、その狙いを「不正をした子どもを罰するのではなく、彼らが責任あるユーザーになるように教育するのが目的だ」と説明している。
2月13日付の同紙の記事「ChatGPT-generated lesson plans effective, teachers say(ChatGPTが生成した授業計画は効果的だと、教師は指摘)」では、シドニー工科大学が昨年行った「Generating a Lesson Plan Using ChatGPT」の調査結果を紹介している。この調査は、世界中の336人のK-12(公立の小中高)教師を対象に行われた。
同記事は「教師はチャットボットを使用して授業計画、課題に対する児童生徒へのフィードバック提供、保護者へのメール返信、推薦状作成などの作業を行っている。これらを自動化することの影響を心配する教育者もいれば、ツールによって作業時間を節約し、児童生徒との交流や私生活に時間を割くことができると言う教育者もいる」と、教師のさまざまな反応を紹介している。
調査結果は次のようなものであった。
①K-12の教師は、ChatGPTで生成された授業計画を10点満点中7.6点と評価した。
②K-12の教師の5人のうち4人は、ChatGPTで生成された授業計画が効果的であると考えている。
③K-12教師の61%は、ChatGPTが何を生み出すかを確認した後、授業計画にChatGPTを使用することを検討している。ただ既に使用しているのはわずか1%に過ぎない。
④K-12の教師の71%が、ChatGPTが生成した授業計画は自分のものよりも詳細であると語っている。
⑤授業計画以外では、K-12の教師は、ChatGPTを使用して試験問題を生成し、練習や復習の質問に答え、例題を提供するために使用することを検討している。
教科別でAIに対する教師の期待度は異なっている。最も期待度が高いのは「数学」で43%。次が「自然科学」の38%、「歴史」の28%、「英語(国語)」の24%、「外国語」の18%、「社会科学」の12%だった。
同記事は「カリキュラム・テクノロジーのツールを使えば、誰でもすぐに授業計画を立てられる。教師がさまざまなテーマに関する魅力的なコンテンツを作成するのに役立ち、授業の複雑さのレベルと期間も制御できる。また、このツールは、さまざまな学習スタイルや教授法など、生徒が自分の能力を最大限に発揮して学習できるようにするための重要な側面も考慮している」と、その有用性を指摘。
「教師は 1つの授業計画作成に平均79分を費やしており、ChatGPTはこのプロセスを大幅に削減できることも分かった。教師はAIが作成した授業計画を最適化するのに平均12分しかかからないため、時間を節約し、他の重要なタスクに集中できる」と説明している。
さらに、「ChatGPTのようなAIを活用したツールは、授業計画に革命を起こす大きな可能性を秘めている。教師はこのテクノロジーを活用して、時間を節約し、より効果的な授業計画を作成し、評価を強化できる。AIが進歩し続ける中、この分野でのさらなる探究と研究は、学年に関係なく、教育を最適化し、子どもの成功を促進するための新しい機会を解き放つことができる」と結論付けている。
教育現場におけるAI活用はまだ始まったばかりであるが、少なくともオーストラリアの教育界では、その活用に極めて積極的に取り組んでいる姿がうかがえる。