文部科学省の「教育データの利活用に関する有識者会議」(座長・堀田龍也東京学芸大学教職大学院教授)の会合が6月5日、オンラインで開かれ、文科省側からこれまでの議論を踏まえて、教育データを実際に児童生徒や教職員らが利活用する事例のたたき台が示された。この中で児童生徒(保護者)の視点として、保護者も情報提供を受けて子どもの状況を把握できることが盛り込まれたのに対し、委員から、「いろいろなデータが保護者に筒抜けになることは、子どもにとって生きづらさや学びづらさにつながるケースもある」などと慎重な議論を求める意見も上がった。
文科省は会議の中で、これまでに紹介された事例や各委員からの意見を踏まえ、教育データ利活用の例として、児童生徒(保護者)と教職員、教育委員会の三者の視点に分けて7つの事例をたたき台として示した。児童生徒視点としては、児童生徒が自らの学びをデータで振り返り、次の学びにつなげることに加え、保護者にもこれらの情報が提供され、子どもの状況を把握することで適切な声掛けなどが可能になることが盛り込まれた。
教職員視点では、生徒指導面で学校のさまざまなデータをダッシュボード(複数のデータを1つの画面にまとめて表示するツール)で可視化することで、効果的な学級運営やきめ細かい個別指導・支援に役立てることや、学習指導面では児童生徒の学びに関するデータを広く活用することで、効果的な学級運営や個別指導・支援につながることが示された。
さらに教育委員会視点では、学校の状況をリアルタイムで把握することによる指導・助言の支援や、データ活用による要因分析で施策改善や学校への指導・助言につなげられることが示された。
このたたき台に対して、委員から意見が出された。戸ヶ﨑勤委員(埼玉県戸田市教育長)は「子どもや保護者の活用は重要だが、一方で慎重になるべきと考える。データをうまく使える子どもは一部であり、新たな教師の負担が生まれることを危惧する。また、保護者への提供はもっと危険な部分をはらみ、個人情報の利用目的の特定の観点やこどもまんなかの視点でしっかり配慮しないといけない」と強調した。
讃井康智委員(ライフイズテック取締役、最高AI教育責任者)も保護者視点の利用について、「子どもたちのいろいろなデータが保護者に筒抜けになることは、子どもたちの生きづらさや学びづらさになるケースもあるので、特に慎重な議論が必要な部分ではないかと思う」と指摘した。
また、佐藤昌宏委員(デジタルハリウッド大学大学院教授・学長補佐)は「学校現場を含めて社会から理解を得るために最も重要なのは、児童生徒の変容ではないか。児童生徒が自分自身の状況に気付き、リフレクションすることで、学習習慣や理解度、興味関心、主体性などの行動変容につながったというユースケースを出すべきだと思う」と述べ、中長期的に児童生徒の視点が重視されるべきとの考えを示した。
有識者会議では今後、教育現場やシステム関係の有識者などのヒアリングを重ね、年内に議論の取りまとめを行う方針。