法務省と文部科学省は6月4日、2023年度の「人権教育及び人権啓発施策」(人権教育・啓発白書)を国会に報告した。子どもの人権問題については、地域と学校が連携した人権教育を推進する動きや子どもの性被害防止に向けた取り組みなどが取り上げられている。学校での人権教育については、23年12月に閣議決定された「こども大綱」に関わる動向やハンセン病問題に関わる動向、性的マイノリティーへの理解を促すLGBT理解増進法制定に関わる動向が新たに記載されている。
白書では、「こども・若者の人権」が特集記事として掲載され、いじめや児童虐待など子どもを取り巻く環境が厳しい状況にあることを受け、子ども・若者の視点に立ち、こども家庭庁を司令塔に政府一体で取り組みを進めていることを強調している。
いじめ防止対策では、「不登校・いじめ緊急対策パッケージ」策定や、重大事態の未然防止に向けた地方公共団体への個別サポートチームの派遣といった文科省の取り組み、学校外からのアプローチによるいじめ解消の仕組みづくりに向けた手法の開発・実証事業や、いじめ調査アドバイザー委嘱といったこども家庭庁の取り組みを挙げた。
また児童虐待防止対策では、「こども家庭センター」整備、子どもの意見表明支援事業、一時保護施設の整備などを報告。「宗教2世・3世」と呼ばれる保護者の信仰に起因した被害者支援の取り組みも記述している。児童の権利条約を分かりやすく解説した啓発冊子の作成と活用にも触れ、今後の人権教育・啓発の方向性として「こども・若者がさまざまな権利の享有主体であることの気付きを促す」点が強調されている。
「人権教育」の項目では、学校教育について、道徳教育や地域・学校での奉仕活動・体験活動の推進を掲げ、教師の資質向上などに触れているほか、トピックスとして、地域と学校が連携・協働した人権教育に向けた取り組みを取り上げている。コミュニティ・スクールや地域学校協働活動の仕組みを活用し、人権擁護委員のコミュニティ・スクール参画や地域学校協働活動での人権啓発の取り組みなどを推進していることが報告されている。
個別の人権課題に対する取り組みについて文科省関係では、子どもの性被害への対策について、子どもたちを性暴力の加害者、被害者、傍観者にさせないため作成された「生命(いのち)の安全教育」の教材、指導の手引きについて、23年度は学校現場での実践を後押しするための事例集公表や全国フォーラム開催が報告された。
いじめ・暴力行為の防止や特別支援教育・障害のある人への支援の充実、ハンセン病問題に関する教育・啓発などのほか、性的マイノリティーに関する人権についても触れ、22年12月公表の改訂版生徒指導提要に関連項目が新設されたことや23年6月のLGBT理解増進法の成立・施行を踏まえ、法の趣旨や児童生徒へのきめ細やかな対応のための取り組みについて教育委員会や大学などに周知を図ったことを説明している。
白書はほかに、SNSでの誹謗(ひぼう)中傷などインターネットでの人権侵害について、中高生と保護者向け啓発冊子の配布や中学生を対象にしたスマートフォンの安全な利用に関する人権教室の開催なども報告している。