【安全な生成AIを子どもたちに】 AI共存時代の「学び」

【安全な生成AIを子どもたちに】 AI共存時代の「学び」
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 生成AIを教育現場に導入するメリットやデメリットが解き明かされてくると、「これからの学校や教師は何をすべきなのか」という問いに突き当たる。安全な生成AIを広げようと活動する改野由尚さんの答えは「情報リテラシー」と「良いものを見る目」の育成だという。インタビューの最終回では、改野さん自身がその両方を学んだと振り返る人生のターニングポイントについて聞いた上で、今後の展望を語ってもらった(全3回)。

評価軸や世界観を持っていること

――生成AIがいろいろな場面で利用されるようになった時、人間の側に備わっていないといけないものは何でしょうか。

 幼少期からの「情報リテラシー」と「良いものを見る目」を養うことだと思います。例えばアートの分野では、これからは絵を描くことよりも鑑賞することの方が大切になると言われています。良いものに対して良いものだという評価や世界観を持っていないと、生成AIで作った作品について、自分ではクオリティーが高いと思っていても、他者から見ると評価されないということになるからです。

 先日、「ハンバーガーを食べたいな」と思って、そういう気分に合う曲を書いてほしいと指示すると、実際に生成AIが歌詞を作ってくれました。さらに、それに見合う曲を作ってほしいと依頼すると、それらしい曲が出来上がりました。そうして作った曲をSpotifyなどの音楽配信プラットフォームにそのままアップロードして収益化するようなことも可能です。とはいえ、自身が作った曲が「良いもの」かどうかを見極める力がなければ、それがビジネスになることはありません。

――そうした話を聞くと、改めて生成AIのポテンシャルの高さを痛感します。

 生成AIの使い方次第では、子どもの可能性を壊すこともあれば広げることもあります。だから禁止するのが良いことでもないし、寛容になり過ぎるのが良いことでもないのです。使用するタイミングと節度を守らなければいけません。

生成AIに対して、禁止でも放任でもいけないと話す改野さん=撮影:市川五月
生成AIに対して、禁止でも放任でもいけないと話す改野さん=撮影:市川五月

課題や試験の出し方こそ変えるべき

――生成AIが活用できるようになると、学校で教師が教えることの意義は変わってくるのでしょうか。

 生成AIだけで課題解決が完結し、「人がいらなくなる」ようなタイミングが来るまでには、まだかなりの時間がかかります。当面は、人と生成AIとが共存することになると思います。先生の中には生成AIの存在に危機感を覚え、「どんな宿題を出せばよいか分からない」と言う方もいますが、教える内容や課題の出し方に工夫をしていけばよいのではないかと思います。

 例えば、国語でも単純に作文を書かせるのではなく、一つの表現について、別の言い換えをするとどうなるかを子どもが考えたり、生成AIを相手にディスカッションをして一つの答えを導き出したりする授業などが考えられます。数学でも答えが合っているかどうかを問うのではなく、解き方を理解しているかどうかを見るための問題の出し方にするなどが考えられます。

 生成AIがあるからといって、公式を覚えなくていい、問題を解かなくてもいいという話にはならないはずです。「電卓があるから計算をしなくていい」とならないのと同じです。あくまでもツールの一つであり、受験のときには使わないなどのルールも必要だと思います。

――知識のみを問う試験の在り方も変わっていかなくてはならないのでしょうね。

 アメリカの名門大学の試験では、ChatGPTが平均点以上のスコアを叩き出し、4択問題はほぼ正解してしまうほどのレベルに達しています。私は大学にAO入試で入ったのですが、現在の総合型選抜のような要素は、これからもっと入試に取り入れていくべきだと考えます。

生成AIの登場で「学び」の意味が問われている=改野さん提供
生成AIの登場で「学び」の意味が問われている=改野さん提供

AIに代替できない仕事を創り出したい

――改野さんは生成AIを中心とした仕事で、NPOと会社を経営されています。昨年度までは現役の大学生でもあったわけですが、今後はどうしていくつもりなのでしょうか。

 NPO法人ニュークリエイター・オルグはライフワークとして続けつつ、AIに取って代わられない仕事を作り出していきたいと考えています。今、株式会社の方では鎌倉でカフェも経営しています。カフェや居酒屋、美容室などの「場」をつくる仕事は、AIに取って代わられるようなものではないと考えています。AIだけでなく、そういう事業も並行して手掛ける会社にしたいですね。今はゼロからカフェを立ち上げていますが、最終的には後継者不足で悩んでいる企業などのM&Aなどを通して多角化し、まちづくりにも関わってみたいと考えています。

――AIと出合い、それを掘り下げることで見えてきた未来像という感じでしょうか。

 高1の時に工業高校を辞めてN高校に行ったのが、自分の中でのターニングポイントだったと思います。N高には年間に数人しか入れない「起業部」という部活動があるのですが、そこに入っていろいろな企業の方からビジネスモデルの組み立て方などを教わりました。また、特待生として午後は授業が免除され、学外でインターンをしてもよいという制度があったので、大阪のIT系企業に通っていました。そうした高校時代の経験が、今に生きていると実感しています。

 私自身は、小さい頃からコンピューターやプログラミングが好きだったわけでも、得意だったわけでもありません。プログラミングを始めたのも高2の時です。独学で3カ月ほどやっているうちにビジネスレベルになっていたらしく、周囲から「働けばいいじゃない」と言われて起業に興味を持ち始めたのです。

N高校でプログラミングの技術と起業家精神を身に付けたと話す=撮影:市川五月
N高校でプログラミングの技術と起業家精神を身に付けたと話す=撮影:市川五月

――最後に、今後の目標を聞かせてください。

 今後の目標は、生成AIを教育現場に広めることで、子どもたちに新たな学びの機会を提供して、彼らの創造性や問題解決能力を育むことです。生成AIはツールとして非常に強力ですが、それを使いこなすためには適切な指導と環境が必要です。私たちは、安全かつ効果的に生成AIを活用できる教育コンテンツとプライベートGPT環境を提供し、教育の格差を解消することを目指します。

 また、生成AIの導入を通じて、子どもたちが未来の職業に必要なスキルを身に付けるサポートをしていきたいと考えています。生成AIは単なる技術ではなく、彼らの創造力を引き出し、新しいアイデアを形にするためのパートナーです。これにより、子どもたちが将来の職業選択肢を広げ、夢の実現につなげることができればいいなと考えています。

【プロフィール】

改野由尚(かいの・よしひさ) 「全国の子どもたちにSTEAM教育を格差なく届ける」というビジョンの下、慶應義塾大学大学在学中の2019年にNPO法人ニュークリエイター・オルグを設立。プログラミング体験ワークショップなどを開催。23年には㈱ニュークリエイターを設立。情報セキュリティーに対応した校内専用GPT環境を実現する「プライベートChatGPT」の提供を始めた。

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