学費値上げ巡り東大で総長対話 総長「学びの環境改善に理解を」

学費値上げ巡り東大で総長対話 総長「学びの環境改善に理解を」
総長対話を前に東京大学本郷キャンパスで行われた学費値上げに反対する学生たちの集会=撮影:山田博史
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 授業料の値上げが検討されている東京大学で、藤井輝夫総長と学生がオンラインで意見交換する総長対話が6月21日に行われた。藤井総長は、厳しい財務状況の中で学びの環境改善のため、経済的困難な学生に配慮した上で、2割の授業料値上げを検討していることを説明した。学生側から「検討プロセスに学生が入っていないのがおかしい」などと反対する声が相次いだのに対し、「まだ決定したわけではなく、学生のみなさんの意見も聴いて検討を進めたい」と述べて理解を求めた。同大学では、学生の意見を聞くアンケートを実施することにしている。

 授業料の値上げをテーマにした同大学の総長対話は初めて。同大学は来年度に入学する学生から、年間53万5800円の授業料を20%引き上げて約64万円にすることを検討しており、本郷キャンパスでは学生たちによるパブリックビューイングの場が設置されたほか、値上げに反対する集会も開かれた。

 藤井総長ははじめに、国からの運営費交付金が削減される中、支出抑制に努めているものの体験活動など断念せざるを得ないプログラムが出ているなどと、資料を示しながら厳しい財務事情について説明し、「学びの環境改善に加えてグローバル化やDX(デジタル・トランスフォーメーション)などを推進したい」などと授業値上げの検討理由を述べた。また、授業料免除の基準を世帯年収400万円以下から600万円以下に引き上げることも検討していると明らかにし、「改定により約290億円の増収となり、未来の学生に向けた事業の拡充に充てられる。経済的困難な学生に配慮しながら今の状況を一刻も早く改善したい」と理解を求めた。

 これに対し、オンラインで挙手した学生から無作為に選ばれた十数人の学生が質問や意見を述べた。このうち複数の学生が検討プロセスの問題点を指摘し、「大学の主体である学生が検討プロセスに含まれないのはおかしい」などと批判した。藤井総長は「まだ決定はしていない。多くの意見を聴いている過程でみなさんの意見も聴いてさらに検討を進めたいと」と答えた。ただし、今後も総長対話の場を設けてほしいとの求めには、「約束できないが検討はしたい」と述べるにとどまった。

 別の学生は「学費値上げ以外で財源を確保できないのか。運営費交付金の増額や寄付金など積極的に取り組むべきではないのか」と質問した。これに対して藤井総長は「産学協創や寄付金集めも強化しているが、教育環境の改善に充てられるのは運営費交付金と授業料であることを理解してほしい」と答えた。また、値上げする場合に何が改善されるか明確にすべきだとの質問には、DX環境改善をはじめ教室のパソコン用電源の確保、体験型プログラムの支援充実に加えて、TA(ティーチング・アシスタント)やRA(リサーチ・アシスタント)の人件費増にも充てたいと、より具体的に説明した。

 さらに学費減免措置に関連して、複数の学生から「保護者に十分な収入があるのに家庭の事情から学費を出してもらえないケースでは手続きのハードルが高く、(それに時間を取られて)授業に出られなくなる」などと手続きの煩雑さを指摘されたのに対し、「申請に時間がかかるとはよく聞くので、仕組みを直せる点は直したい」と答えた。

 同大学によると、総長対話には約750人の参加申し込みがあったといい、対話の時間は予定より30分近くオーバーして約2時間に及んだ。最後に藤井総長は「対話の中で授業料改定や東京大学の財政、高等教育を社会全体でどう支えるかについて幅広く議論でき、気付きがあった。いただいた意見を踏まえて次のステップへより良い授業料のありかたを考えていきたい」と述べて、締めくくった。

 同大学は、学生から多く寄せられた質問・疑問に関しては何らかの方法で回答することを検討するとともに、学費の改定に関して学生の意見を聞くアンケートを実施することにしている。

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