次期学習指導要領 教員の負担軽減への具体的検討(藤川大祐)

次期学習指導要領 教員の負担軽減への具体的検討(藤川大祐)
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教員の負担を「どれだけ減らせるか」が問われる

 本紙電子版6月10日付で報じられているように、中教審「今後の教育課程、学習指導及び学習評価等の在り方に関する有識者検討会」が、次期学習指導要領に向けた議論をしている。

 2017(平成29)年に現行の小中学校学習指導要領が告示されて以降、学校では教員不足が深刻化し、コロナ禍への対応やGIGAスクール構想の前倒し導入といった大きな動きがあった。忘れてはならないのは、現行の小中学校学習指導要領が教員の負担を大きく増やしてしまったことだ。

 08(平成20)年告示の学習指導要領と比較すると、特に小学校で教員の負担が重くなっていることが分かる。具体的には、道徳の教科化、小学校における外国語(英語)の教科化、小学校におけるプログラミング教育の導入などが行われ、小学校3~6年においては年間標準時間数も表のように増加している。

 小学校における教員の負担増は、多忙と人手不足に苦しむ学校現場の状況をさらに厳しいものにしている。今後急激に事態が好転することが期待できないとすれば、次期学習指導要領が教員の負担をさらに増す方向は許されず、むしろどれだけ減らせるかが問われることになる。教員の負担を大胆に軽減することを前提に、議論がなされることを求めたい。

教員の負担軽減策を先行させた上で、新しい取り組みを

 以下、教員の負担を軽減するための具体的な検討事項である。

 まず、標準時間数について言えば、08年改訂時の水準に戻すことを最低条件とし、さらに数%の減が目指されるべきであろう。私は、年間35週の原則を年間33週程度に減らす(すなわち約6%減らす)ことを目標にすることを提案したい。これにより、年度初めに数日の余裕を持たせた上で、繁忙期に午前授業などの対応を取ることが可能となり、教員が勤務時間中に基本的な業務のほとんどを行うことが促されるだろう。

 時間数が減ったとしても、ICTを効果的に活用し、「個別最適な学び」を進めることによって、学習の効率を高くすることで、扱われる内容を極端に減らすようなことは避けなければならない。

 次に、教科等の具体的な在り方についても、教員の負担軽減の視点から以下の点の検討を求めたい。

1.水泳指導の抜本的見直し

 水泳指導を学校で行うためには、年間を通したプールの維持管理、児童生徒の安全・健康の管理、指導のための研修など、教員の負担が大きい。これまで通り学校が水泳指導を担うことを前提とせず、水泳指導を維持するのかについて抜本的な検討を行うべきだ。スイミングスクールなどへの外部委託、移動教室などと組み合わせた外部での実施といった選択肢もある。もちろん、水泳指導全廃も一つの可能性として検討されるべきだろう。

2.道徳科に関する教員負担の軽減

 道徳が「特別な教科」となり、主に学級担任が指導計画を立て、毎週授業を行い、文章で評価を書くことが必要となっている。複数の学年で同じ項目が繰り返し扱われていることを考えると、時間数を減らした上で、評価は書かないこととするといったことにより、教員の負担を大幅に軽減することが可能となる。教員の負担を08年学習指導要領と同水準以下にすることを目指して、軽減できるようにすべきだ。

3.学校行事の量的制限

 各種学校行事については精選が進んではいるものの、地域差や学校差もあるものと考えられる。例えば、「特別活動における学校行事に使える日は、各学年年間10日以内とする」「学校行事の準備は教員が勤務時間内に行うこととする」といった制限を設けることも検討されるべきではないか。

4.部活動の位置付けの明確化

 現在、中学校や高校の部活動は「生徒の自主的、自発的な参加により行われる」教育課程外の学校教育活動とされ、「学校教育の一環として、教育課程との関連が図られるよう留意すること」とされているが、他に特に規定はない。別途、スポーツ庁や文化庁が部活動のガイドラインを定めているが、こうしたガイドラインは順守されているとは言い難く、たとえ順守しても教員の勤務時間外に部活動が行われる状況は避けられない。部活動を学校教育外のものとする、あるいは教員の勤務時間内に限って対応が可能なものとするというように、部活動の位置付けを明確化することが求められる。

 以上のように教員の負担を大胆に軽減した上で、新しい内容の充実が検討されるべきだろう。統計・データサイエンス関連の充実、アントレプレナーシップ(起業家精神)教育の導入、金融経済教育の充実、心身の健康に関する教育の充実など、検討されるべき事柄は多い。教員の負担軽減策を先行させ、その上で、新しい取り組みについて夢のある議論が展開されることが理想である。

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