SOS発信待たず悩み対応 神奈川県教委の「サポートドック」

SOS発信待たず悩み対応 神奈川県教委の「サポートドック」
アンケートの回答を集計したスクリーニングシートのイメージ=提供:神奈川県教委
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 いじめ問題や不登校につながる心の悩みなどを早期に把握しようと、神奈川県の県立学校で進められているタブレット端末を使った生徒へのアンケートシステム「かながわ子どもサポートドック」が運用開始から7月で10カ月を迎え、神奈川県教育委員会は手応えを示している。アンケートの回答に心配な点があれば、学校側から「プッシュ型面談」で生徒にアプローチしていく仕組みで、県教委は市町村教委に呼び掛け、小中学校での活用も広がっている。

 「サポートドック」は生徒が学校生活や心の問題などを自己チェックするアンケートを一元的に管理して教員やスクールカウンセラー(SC)、スクールソーシャルワーカー(SSW)らが情報共有し、生徒が抱える問題を早期に把握して対応するシステム。神奈川県教委は2023年度、NTT東日本と連携し、935万円の事業費でシステムを構築し、9月から運用を始めた。同時にSC、SSWを大幅増員し、県立高校ではともに週1回配置できる体制を整えた。

 アンケートは高校と中等教育学校の神奈川県立学校136校の全生徒約11万人を対象に実施。生徒はタブレット端末を使ってウェブ上で学校生活や人間関係、家庭環境など15問の設問に選択肢を選んで回答する。対面や書類記入の必要はなく、担当する教員やSC、SSWらは回答を見て、生徒が抱える問題や不安をいち早くキャッチできる仕組みだ。ネガティブな回答、矛盾する回答など問題が隠れていそうな回答には目立つ色を付けるアラート機能を設定し、支援の必要度が高い生徒を見分け、スクリーニング会議で支援方針を検討する。必要に応じて生徒に声を掛け、外部の専門機関、行政組織と連携を図る。

 GIGAスクール構想による1人1台端末を活用した対策としては、タブレット端末からのSOSの発信やチャットを使った相談、報告、ウェブ会議システムを使ったオンラインカウンセリングなどの先進事例が全国各地にあるが、神奈川県教委の取り組みは本人の申告を待たず、支援に動き出す「プッシュ型面談」を想定している点が特徴だ。

 神奈川県教育局支援部学校支援課は「人間ドックが病気を早期発見するように、サポートドックは周囲に見えづらい生徒の悩みや問題を深刻化しないうちに対応するのが狙い」と説明。同課によると、学校現場からは「これまで問題がないと捉えていた生徒が学校外で地元の友人から暴力を受けている事態を把握し、警察につなげて解決した」「病院の受診が必要な生徒が親の考えで受診できない事態を把握し、児童相談所と連携して親に説明し、医療機関につなげることができた」という報告があった。

 同課は「効果の検証は今後進めなければならない。新しい事業は学校側に負担増の懸念があり、手探りの状態で始めたが、SC、SSWの専門的視点を効果的に活用でき、今年度は前向きに捉える学校が多くなった」と手応えを示す。24年度も年2、3回アンケートを実施する計画で、5月下旬~6月にかけて各校でアンケートが実施されているという。

 また、県教委は県内市町村教委に呼び掛け、小中学校への展開も図っている。小中学校支援を担当する県教育局支援部子ども教育支援課は、アンケートの様式、設問例は示しているが、タブレット端末を使うか紙を使うかも含め、児童生徒の発達段階に合わせて検討し、それぞれの教委や学校でカスタマイズして「サポートドック」の仕組みを活用してもらいたいという。

 同課によると、アンケートの回答には児童虐待を感じさせる記述はなかったが、書かれた文字の雑然とした雰囲気などからSCがリスクを指摘して問題を早期に発見、福祉施設に対応を求めた事例が報告された。「SOSを発信できる子どもは氷山の一角。アンケートから児童生徒の困っていることをキャッチし、プッシュ型面談などの支援につなげてほしい」としている。

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