文部科学省の「教育データの利活用に関する有識者会議」(座長・堀田龍也東京学芸大学教職大学院教授)の会合が7月10日、オンラインで開かれ、奈須正裕上智大学総合人間科学部教授や群馬県教委教育長の平田郁美委員などからヒアリングを行った。奈須教授は、デジタル化が進んで子ども自らが個別最適な学びに向き合い、学びを深化させる可能性に触れながら、教師と子どもの間に新たな信頼関係が形成されることになると指摘した。平田委員は、群馬県の教育データ利活用について独自の取り組みを紹介するとともに、「自律した学習者の育成」を目指す同県教育ビジョン推進に向けて、デジタル基盤整備などが課題になっていることを報告した。
中教審委員を務める奈須教授は、教育データ利活用に触れる前段として、まず全ての子どもは有能な学び手であり、適切な環境に出合えば有能さを高められるという事実認識の共有が重要であることを強調するとともに、子どもの多様性が急速に拡大して伝統的な一斉指導では応じられなくなる中、1人1台端末やクラウドなどのデジタルは、こうした課題を解消する強みを持っていると指摘した。
その上でデジタル化が進むことで、子ども自らが膨大な情報と直接向かい合って個別最適な教材や情報と出合え、学びを深化させる可能性が高まっているとして、協働的な学びも含めて子どもの個性や自発性を大切にすることが求められると強調した。
こうした中での教師の立ち位置について、奈須教授は「ある意味で子どもたちに委ねるとともに鍛えることであり、教師と子どもの新しい意味の信頼関係を形成していくことになる。学級単位で進んできたことがデジタル活用によって個人単位でハンドリングできることになり、学校教育のデザインのベースが変わっていくと思う」などと述べた。
平田委員は、群馬県で進めている教育DX推進の取り組みについて説明した。同県では、2021年にICT教育推進研究協議会を設置して全市町村で校務デジタル化などを進めており、教育データ利活用では、児童生徒の心理状態・健康状態をチェックできるライフ・ログや学力向上につなげるスタディ・ログの活用研究に取り組んできたことを紹介した。
その結果、ライフ・ログ活用では一定の成果を得たものの、デジタル基盤のばらつきや財政の観点などから教育データ利活用が全県に広がらなかった経緯を説明した。
こうした教訓も踏まえて今年度からスタートした群馬県教育ビジョンでは、「自律した学習者の育成」を掲げ、子どもを信じて子どもに任せ、教員を信じて教員に任せるというスタンスで取り組みを進めた結果、今のところビジョンの浸透を実感しているという。
平田委員は「腹を決めて子どもや教員に任せることで取り組みが進むと思う。教育データ利活用には教員の腹落ちとデジタル基盤が必要であり、デジタル基盤の標準化などを進めていきたい」と述べた。
有識者会議では今後も教育現場やシステム関係の有識者などのヒアリングを重ね、年内に議論の取りまとめを行う方針。