「災害レベルの暑さ」ともいわれた2023年に続き、今年の夏も猛烈な暑さになっており、学校現場では熱中症対策は欠かせない。間もなく夏休み。基本的な対策は早い時期から汗をかき、暑さに慣れる「暑熱順化」だが、梅雨明けは特に注意が必要だという。気象関係者に聞いてみた。
「昨年は史上最も暑い夏といわれ、今年も同等の暑さ」
日本気象協会の熱中症予防指導員、泉澤里帆さんはこう話し、ここ数年の暑さの危険性を「災害レベル」と指摘する。23年は東京で64日連続真夏日を記録するなど年間の猛暑日、真夏日の日数が過去最多となった地点も続出した。消防庁によると、23年(5~9月)に熱中症で救急搬送された人は9万1467人。調査開始以来最多だった18年の9万5137人に迫った。
ただ、気象災害だからこそ予測もできるし、備えておくことはできる。
気温、湿度、日射、輻射(ふくしゃ)などの周辺の熱環境を勘案した暑さ指数(WBGT)33以上が予測される地点を含む地域には、熱中症警戒アラートが出される。24年は新たに熱中症特別警戒アラートの運用が始まった。暑さ指数35以上がその基準。主に都道府県単位で前日に発令される。学校現場ではWBGTを測定する機器も普及してきた。アラートに対応し、校庭の利用、体育館での運動を中止するといった対応が取られるが、夏休み中も警戒アラートが出されるような暑さが予想されるときは外出を避けるといった対応が必要。事前に気象情報を把握し、台風や大雨同様、気象災害として備える。日本気象協会では、こうしたメッセージを発信している。
泉澤さんは、熱中症にかかる人を減らし、熱中症で死亡する人をゼロにするという目標を掲げ、日本気象協会が推進する「熱中症ゼロへ」プロジェクトのプロジェクトリーダーでもある。13年にスタートした同プロジェクトは12年目を迎え、24年のテーマを「地球沸騰化時代の熱中症対策」とした。国連のグテーレス事務総長が「地球沸騰化時代」と表現し、気候変動は地球温暖化というレベルを超えたという主張も目立つほど、夏の暑さは年々、苛烈さを増しているからだ。
熱中症の対策はほとんどが基本的なことだが、泉澤さんは「汗をかく習慣が大切」と強調する。本格的に暑くなる前の段階で適度な運動をして汗をかき、少しずつ暑さに慣れていくことが重要で、同プロジェクトでもここ数年「暑熱順化」の重要性を打ち出している。
子どもたちは体育の授業や屋外、広い場所で遊ぶことで自然と体が慣れてくる。同プロジェクトが示す暑熱順化の目安は、▽ウォーキング30分、ジョギング15分、週5回▽サイクリング30分、週3回▽筋トレ、ストレッチなどの適度な汗をかく運動30分、週5回~毎日▽入浴(シャワーだけでなく、湯船に漬かる)2日に1回――といった内容だ。
「無理をしない範囲で体を慣らし、夏場にはサラサラの汗をかくようになれば」と泉澤さん。汗は皮膚の下の血管の面積を広げて熱を外に出しやすくし、皮膚から蒸発するときに皮膚の熱を奪う気化熱で体温を下げてくれる。汗をかきやすい体になれば、汗をかいても失うナトリウムの量はしっかりと制限される。逆に暑熱順化できていないときの汗は塩分を多く含み、ナトリウムを失いやすい。
暑熱順化で本格的な暑さに慣れるのは数日~2週間程度かかるとされるが、特に注意が必要なのは梅雨明け、梅雨の晴れ間だという。例年、梅雨明けの時期は熱中症による救急搬送が急増する。早い段階から暑熱順化していたとしても、梅雨の時期に屋外での運動が減り、暑さに慣れたはずがリセットされる可能性もあるという。泉澤さんは「暑さに一度慣れても、梅雨の時期に気温が上がらない日が続くと、戻ってしまうのが厄介なところ」と話し、日本気象協会でも注意喚起に力を入れている。
梅雨の間は外出を控えていて、晴れ間を待ちわびて屋外で遊ぶ子どもたちも注意が必要だ。「子どもたちは遊びに夢中になる。周りの人が様子を気にかけたり、水分補給や休憩を適度に入れたりしながら見守っていくことが必要」と注意を促す。消防庁によると、23年、熱中症で救急搬送される人の54.9%は65歳以上の高齢者だったが、7~18歳の少年も10.5%いた。
「熱中症ゼロへ」のホームページには、現在地と活動状況などから危険度を測定できる「熱中症セルフチェック」が掲載されている。