歴史が教えるところでは、戦争は大きな犠牲を払う割には、小さな成果しか得ることができない。それでも戦争は終わることなく起こる。戦争の最大の犠牲者は子どもたちかもしれない。戦争は子どもたちの生命を脅かすだけでなく、日々の生活や学習にも甚大な影響を及ぼす。イスラエル・ハマス戦争も例外ではない。多くの報道は、ガザ地区で多くの子どもたちが殺されたり、苦境に直面したりしていることを伝えている。
だがイスラエルの子どもたちに関する情報は、日本ではほとんど伝えられていない。国境の学校は閉鎖され、5万2000人以上の児童生徒は知らない街へ疎開を強いられ、教員たちも戦争について子どもたちにどう教えるべきか苦悩している。そうしたイスラエルの学校や児童生徒たちの状況を、戦争が始まってから現在に至るまで、『The Times of Israel』は継続して報道している。その一部を紹介する。
イスラエル・ハマス戦争が始まった直後の2023年10月23日、『The Times of Israel』は「School system grapples with unprecedented challenges during wartime (戦時中の学校制度は前例のない課題に取り組む)」と題する記事を掲載し、戦争が始まってからの学校の状況を報告した。国境地域から避難してきた児童生徒を受け入れるために、学校は午前と午後の二部制になった。受け入れのために新しい学校の建設も予定されている。
「空襲警報が鳴った時、生徒全員が時間内に避難所に到着できることを条件に、対面学習を許可」「約2400人の教師が予備役として招集され、授業や活動の予定を立てることが困難」と、学校の状況を説明している。文部省は、児童生徒のためにホットラインを設置し、トラウマ治療サービスの提供を拡大する方針を明らかにしている。
23年12月2日の記事「’Pop-up’ schools’ aim to tackle education for 52000 evacuee students(臨時学校が5万2000人の避難学生の教育に取り組む)」によると、幼稚園から高校までの約5万2000人が避難し、ホテルやキブツに滞在している。そうした子どもたちの受け入れのため、全国に約350の臨時学校が建設された。現場の教師たちは「できる限り通常の科目を教えるように努めるが、授業に焦点を当てるよりも児童生徒のための規則的な日常の仕組みを作ることが大事だ」と語っている。同11月に文部省は、新しい学校と教育インフラを作るために約3億ドルの「復興のための教育プロジェクト」を発表した。
教育インフラが急速に整備されたが、多くの教師は教室での授業の進め方に苦慮している。同紙は今年5月22日に「Dilemma abound as school system work to help students process Oct. 7 and horrors of war(学校が、学生が10月7日と戦争の恐怖を乗り越えられるように支援しようとすれば、多くのジレンマに直面)」と題する記事を掲載した。
「10月7日の虐殺とガザ地区で進行中の紛争を巡る問題は、全学年の学校生活のあらゆる側面に影響を及ぼしている。学校は、心に傷を負った子どもに対応している」と、教員が直面する問題の深刻さを指摘している。
同紙は、女子高の美術教師の例を紹介している。同教師は今年の初め、生徒の作品展示会を計画した。教師は「生徒たちは、生々しい、直観的な情景や、感情的に激しいイメージを描く作品を作ったのに驚いた」と語っている。「多くの生徒は戦争を概念的に受け止めていたが、一部の生徒の作品は暴力的だった」と、生徒が描いた作品に対する印象を語っている。「暴力的に描かれた作品をどうすべきか」迷った美術教師は、美術の主任教師や校長、セラピストと協議し、その結果、挑戦的な作品は別の場所に展示し、展示会を継続することが決まった。「これにより生徒全員が『自分の意見を言う』ことが可能になり、一部の難しい作品も展示することができた」と、対応などが難しかったことを述べている。
また、ある教員は中学2年生の生徒に10月7日に関する宿題を出した。すると生徒は性暴力や殺人について書き、教員と学校は生徒の両親から「学校の課題が限度を超え、娘をうつ病に追い込んだ。教師に悪気はなかったと思うが、もっと責任を持って欲しい」と批判された。
こうした状況に対して、文部省のカウンセリングの専門家は「私たちはさまざまな活動を提供し、児童生徒にとって何が重要かを理解する必要がある。状況について書く宿題は、児童生徒にネガティブな影響を与える可能性があるが、他の子どもには力を与える可能性がある。教師はカウンセラーと協力し、何が最善か知る必要がある」と、教師が直面する問題の難しさを指摘している。
戦争と自然災害を同列に置けないが、戦争という異常な状況に置かれたイスラエルの学校や教師が直面している問題は、地震や津波などの自然災害に襲われた日本の学校や教師が直面した問題と共通していると言えるだろう。最優先すべきは「子どもたちのトラウマにどう対処すべきか」という事である。