逆境体験の子ども 学校での肯定的体験で疾病リスク半減

逆境体験の子ども 学校での肯定的体験で疾病リスク半減
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 子ども時代に虐待やネグレクトなどの逆境的な家庭環境で育っても、地域や学校に信頼できる大人や支えてくれる友人がいるなど肯定的体験が多くあることで、成人期に脳卒中や重度のうつ・不安障害などにかかる疾病リスクが半減することが、大阪大学大学院人間科学研究科の三谷はるよ准教授と京都大学大学院医学研究科の近藤尚己教授らの研究グループによる研究で明らかになった。大阪大学が7月16日に発表した。三谷准教授は「地域や学校の役割に光を当てるものであり、子どもに寄り添い続ける地道な関わりが支えになることを伝えたい」とコメントしている。

 発表によると、研究グループは2022年に行われた全国横断的インターネット調査(JACSIS)に参加した18~82歳の男女約2万8000人のデータを分析して、18歳までに経験した虐待やネグレクト、家庭の機能不全(DV目撃など)などの逆境体験や、肯定的体験、現在の慢性疾患(がんやうつ病など)の関連性を調べた。

 その結果、子ども時代に逆境体験があっても肯定的体験が多いほど、脳卒中や心筋梗塞、重度のうつ・不安障害といった成人期の疾患の可能性が低くなる傾向が表れた。具体的には、肯定的体験である「親以外の信頼できる大人がいる」「支えてくれる友人がいる」「学校への帰属意識」「地域の伝統行事」の4つのうち3つ以上の体験がある場合、体験が2つ以下の人と比較して、脳卒中の有病率は2.4%から1.2%(51.9%減)に、重度のうつ・不安障害は16.4%から7.4%(54.9%減)に、狭心症・心筋梗塞は3.4%から1.7%(49.2%減)となるなど、ほぼリスクが半減することが認められた。

 これまで、子ども期に逆境体験のある人は成人期に心臓病やがんなどの疾患にかかりやすいことが分かっていたが、コミュニティーでの肯定的体験が悪影響をどう緩和するかについては十分に検討されていなかった。地域や学校での肯定的体験が、逆境的な家庭環境で育った子どもの成人期の疾病リスクを半減させることを示したのは世界で初めてという。この研究成果は、国際医学雑誌「BMJ Open」で公開された。

 三谷准教授は「生まれ育った家庭でつらい経験を重ねた人は過酷な人生を歩みやすいことを示す数多くの研究がある中で、地域や学校の役割に光を当てるものだ。子どもに関わる支援者の多くは自分たちに何ができているのかと無力感を抱えながら活動されているが、子どもに寄り添い続ける皆さんの地道な関わりが、その子の心身の支えになりうることを、エビデンスをもって力強く伝えたい」とコメントしている。

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