教員の長時間労働が大きな課題となる中、茨城県守谷市では独自の学校教育改革を実施し、教員の働き方改革を推進してきた。その中心となっているのは、小4~中3を対象とした「週3日5時間授業」だ。児童生徒や教員の学期中の負担を減らす一方、夏休みに授業日を設けるなどして、年度内に必要な授業時数を確保する。加えて、小学校の教科担任制や中学校での部活動改革にも取り組む。現在も全国から視察が相次いでいるという守谷市の改革について、同市教育委員会の古橋雅文参事に概要や課題を聞いた。
守谷市で「学校教育改革プラン」が打ち出されたのは、2019年度のことだ。守谷小、守谷中の校長も務めた町田香教育長が、それまでの学校現場での経験から、教員がよりゆとりを持ち、授業の準備をしたり児童生徒と向き合ったりする時間を確保できるようにと音頭を取った。「守谷型カリキュラム・マネジメント」と称して、市内にある全ての公立の小中学校で、小4~中3は月曜日から金曜日まで6時間授業だったものを、月・水・金曜日の週3日は5時間授業に変えた。
一方で、3学期制を前期・後期の2学期制とし、少なくした始業式や終業式などの時も授業を行うようにした。また、夏休み中、8月26日~30日までの5日間は「夏季授業」をし、休日だった「県民の日」も授業を実施するなどして、年度内に必要な授業時数は確保できるようにした。
この結果、学期中の小4~中3の授業の時間は、以前より1週間あたり2時間15分減ることになった。「この改革は、教員と児童生徒たちに好評だった」と古橋参事は話す。教員からは、「退勤時刻が早くなった」「教材研究の時間を確保できるようになった」「子供たちと話せる時間が増えた」などの意見が多数寄せられた。
実施後の市教委による調査では、教職員の66%が「働き方改革に有効」だと評価。児童生徒も84%が「放課後が充実し、ゆとりもできた」とし、「趣味や自分のやりたいことをする時間が増えた」「友達と遊ぶ時間が増えた」「宿題や家庭学習をする時間が増えた」などの意見が多数だった。
「この改革により、特に小学校で教員の時間外勤務が減った。平均して1人1日あたり1~2時間ほど減ったとみられる」と古橋参事は話す。長い夏休みがあることよりも、学期中の日々の負担が減ることの方が、教員にとっては負担軽減の実感が大きかったようだ。
翌20年度には、全国に先駆けて小学校の高学年で「教科担任制」を導入した。小学5、6年生の「理科」「音楽」「図工」で専科教員を配置し、授業を実施している。この結果、学級担任が授業する時間が、1週間あたりさらに最大6時間減らすことができるようになり、その間に教材研究や事務処理などもできるようになった。「専門性がある教員が授業することで、教科書に書いてある以上のことを教えるなど、より深みのある授業ができるようになった」と古橋参事は話す。
中学校では、「週3日5時間授業」で授業時間は減ったものの、その分、部活動の時間が増えるなどし、働き方改革がそれほど進んでいないことが分かった。そこで22年度から「部活動改革」も進めることにした。部活動の時間を「1コマ=50分」とし、月・水・金曜日の5時間授業の日は2コマ100分にし、火曜日の6時間授業の日は1コマ50分に、また木曜日は部活動なしとした。
これにより、平日の部活動は7コマとなり、通常時は生徒が16時50分には完全下校できるようになった。部活動の地域移行も同時に進め、中学校でも教員の時間外勤務時間が減った。市内の公立中学校4校の平均で、時間外勤務時間は21年6月に79時間だったが、今年同月には43時間になった。
ほかにも学校の教育改革は進められている。不登校の児童生徒への対策として、市内の8小中学校(全4中学校と、9小学校のうちの4小学校)で、校内の空き教室を利用して「校内フリースペース」を設置し、教員免許を持つ市職員が1人ずつ常駐して子供たちの相談に乗るなどし、児童生徒がより学校に行きやすくなる工夫をしている。
また、今年度からは市内の全4中学校区に1人ずつ、市独自のスクールソーシャルワーカーを配置し、各中学校を拠点としながら学区内の小学校にも定期的に訪問するようにし始めた。悩みを抱える児童生徒に対しての関わりを分担したり、連携して対応したりすることができるようになり、教員の働き方改革にもつながっているという。
今後の課題として、古橋参事は「中学校での教員の『働き方改革』をより推進するため、部活動の外部委託をもっと進める必要がある」と話す。また、小学校でも「いじめなどに関する放課後の生徒指導に時間がかかると、教員の時間外勤務が一気に増えることがある」とし、その対策も兼ねて、今年度からいじめそのものを防止するために、公立の全小中学校で学年ごとに統一した内容で、いじめの定義や防止するにはどうしたらよいかなどを教育する「いじめ防止プログラム」を始めた。
古橋参事は、「学校教育改革の枠組みはできてきたが、今後は一つ一つの施策を充実させて、より深みのあるものにしていきたい。教員の働き方改革についても、時間がかかっていた授業づくりを、ICTなどを活用して効率的にする支援をし、AIの活用も検討しながら教員の事務作業をさらに減らしていく方策も考えていきたい」と抱負を述べた。