全国の120大学が加盟する日本私立大学連盟(会長・田中愛治早稲田大学総長)が8月7日、東京都内で記者会見を開き、将来を見据えた新たな公財政支援の在り方について提言を発表した。この中で田中会長らは、将来の人的投資となる大学教育の充実に向けて新たに約2兆円の財源が必要との試算を公表し、国立大学と私立大学の格差を是正して公平な競争環境を整え、質の高い高等教育の実現を目指すべきとの考えを示した。
記者会見には、田中会長や同連盟の公財政支援を考えるプロジェクトの委員長を務める曄道佳明副会長(上智大学学長)らが出席した。はじめに田中会長が「人口減少が急速に進行する中で、質の高い教育研究で学生一人一人の能力を高めていくことを目標に、新たな公財政支援の在り方について考えをまとめた。文部科学省が今年度から進める5年間の集中改革期間の中で、ぜひ実現していただきたい」などと述べた。
続いて曄道副会長が提言の内容について説明した。この中では、少子化やグローバル化といった社会の変容の中で高等教育が大きな転換期を迎える中、国民全体の能力の底上げに向けて、学生全体の約8割の教育を担う私立大学の質の向上が国民全体の能力の総和の増減に大きく関わると指摘。将来の社会の発展に向けた大学教育の人的投資を進めるべきと強調した。
その上で新たな公財政支援の在り方として、学生個人の能力や経済状況に応じた個人補助型の就学支援を充実させるとともに、質の高い教育研究を実現するための大学への機関補助を合わせると、教育財源として約4兆2000億円が必要との試算を示し、現状の補助金に加えて新たに教育国債を発行するなどして約2兆円の財源を確保すべきとの考えを示した。
具体的な提言としては6項目を挙げ、主に国立大学と私立大学の格差是正を求めた。この中では、私立大学の経常費補助が、国の予算の都合で現状では50%以上圧縮されているとして圧縮率の撤廃を求めるとともに、私立大学への施設・設備への支援を巡って国立大学との間で学生1人当たり21.5倍の格差が生じているとして、支援の拡充を求めている。また、修学支援新制度を巡っても、授業料減免に関する国立大学と私立大学の格差是正や中間所得層への給付型奨学金の拡充などを盛り込んだ。
田中会長は「国立や私立など設置形態で大学への公的支援を決めることに問題があり、持っている機能に応じて国公私立が競争できる環境にしてほしい。日本の大学生の8割は私立大学で学び、8割を占める大学生の保護者が2割の国立大学の研究推進を税制で負担することは不公平でもあり、公平に考えてほしい」と強調した。
また、曄道副会長は「大事なことは私立大学の機能を高め、質の高い大学教育を展開したいということ。単に大学経営上の問題だけでなく、日本の社会の発展に質するという大事な観点を強調したい。それによって高度人材の育成が実現され、社会が活性化され、税の増収や経済成長につながるという循環型の社会を見据え、高等教育の在り方を改めて問いたい」と訴えた。