人口減少や教員不足など地方の教育政策を巡る課題が山積する中、教育政策と地方財政の在り方などを考えるシンポジウムが、東京都内でこのほど開かれた。欧米5カ国の現地調査から、教員不足が各国共通の課題となっている状況が報告され、パネルディスカッションでは、教員不足について「国全体の人手不足とともに考えるべきだ」「働きやすさだけでなく働きがいも高めるよう総合的に取り組む必要がある」などとの意見が出された。
同シンポジウムは、主催の地方公共団体金融機構(JFM)と国立大学法人政策研究大学院大学(GRIPS)が、人口減少が進む地方財政の課題として、教育・人づくりに焦点を当てて欧米5カ国で実施した現地調査などの研究成果を基に、教育政策と地方財政の在り方を考えようと開かれた。
はじめに横浜国立大学経済学部の伊集守直教授が「社会構造変革下における教育政策をめぐる地方財政」と題して基調講演した。この中で伊集教授は、欧米の中で比較対象国としてデンマークとスウェーデン、フランス、ドイツ、米国の5カ国で調査を実施したことを説明するとともに、日本の教育政策の課題として公的教育支出が低いことなどを指摘した。また、地方分権で教員配置や教員給与の上乗せが可能になった一方で自治体間の財政力の差が出やすい傾向にあり、全体的に人手不足状態にあることを指摘し、「主体的・対話的で深い学びに向けた取り組みが求められる中でしっかり教員を確保することが求められる」と問題提起した。
このあと5カ国の現地調査を行った調査研究委員が報告した。このうちデンマークでは公立学校の教職員の給与水準は他業種と比べて低くないものの、待遇や地位が低いとされ私立学校への転職が相次いでおり、2023年には教職員不足が過去最多に上っていることが報告された。また、スウェーデンでも教員不足が課題で、科目を教える資格のない教員が数万人規模で存在しているほか、フランスでも教員1人当たりの生徒数が多い上、平均給与が低く、教員不足が深刻な課題となっていることが報告された。逆にドイツでは教員の待遇は良く地位も高いものの、資格取得が難しいことで教員不足が起きており、中途採用を増やすなどの改革が進められていることが説明された。
こうした報告も踏まえて行われたパネルディスカッションでは、教員不足もテーマの一つとして意見が交わされた。東北大学大学院教育学研究科の青木栄一教授が「日本では本来スクールカウンセラーの行う業務まで教員が担うなど、教員の給与だけで多様な業務を行っており負担が高まっている」と指摘し、「教員不足は各国に共通しているが、日本では大卒の人数が減っていることも大きな理由であり、国全体の人手不足とともに考えなければいけない」と強調した。
また、神奈川県鎌倉市の高橋洋平教育長は「ドイツでは教員の処遇はよくても他の事情で苦しいことを考えると、処遇改善だけで問題が解決できるわけではない。教員は子どもたちの成長に喜びを感じて働きがいを感じる面もあるので、働きやすさに働きがいも高めて、総合的に取り組んでいく必要があると思う」と述べた。